2017年 年間ベスト
2017年もたくさんの映画を観た。2017年公開作品で、劇場で観たものは以下になる。
沈黙/ 疾風スプリンター /雌猫たち/ コンサルタント /アンチポルノ / ネオンデーモン /ドクターストレンジ/ 晴れた日は君を思う、雨の日は会えない /ナイスガイズ /グリーンルーム/ ララランド/ モアナと伝説の海/ 愚行録 /アシュラ /ムーンライト /スウィート17モンスター /FREE FIRE/ 夜は短し歩けよ乙女 /ガーディアンズオブザギャラクシー vol. 2 / スプリット/ メッセージ/ マンチェスターバイザシー/ 20センチュリーウーマン /光 /ハクソーリッジ /怪物はささやく/ ありがとうトニエルドマン/ ジョンウィックチャプター2 /ザ・マミー 呪われた砂漠の王/ベイビードライバー /ダンケルク/ ELLE /ワンダーウーマン /パターソン /ギミーデンジャー/3度目の殺人 /奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール/ スイスアーミーマン/ アウトレイジ 最終章 /ブレードランナー 2049 /バリーシール/ アトミックブロンド /彼女がその名前を知らない鳥たち/ ノクターナルアニマルズ/ ドリーム /IT それが見えたら終わり/ ゲットアウト /エンドレスポエトリー /全員死刑 /パーティで女の子に話しかけるには/ 希望のかなた/ 青春夜話 /スターウォーズエピソード8 最後のジェダイ
以上、53本から、ベスト10を選んでみた。今年は、10本に絞るのがとても難しいほどに、映画が豊作な一年だった。なんだか印象に残っている、忘れられない、また観たい!という個人的な感覚に基づく基準で10本選んだ。映画館に通うことが魂の拠り所になっている映画好き男のちっぽけな偏愛ベスト10である。普段映画をみないひとにとっては観るきっかけに、映画好きの人にとっては一年を振り返るこの時期の暇つぶしにでもなればいいと思う。
10位 ベイビードライバー
https://www.youtube.com/watch?v=nwR1dArkDMQ
ショーンオブザデッド、ホットファズなどで知られるイギリス出身のエドガーライト監督のアメリカ長編映画デビュー作。超絶ドライブテクを持つBABYは、とある理由で音楽が流れていないと耳鳴りが止まらなくなる状態。だからずっとゴキゲンな音楽を聴いている。犯罪組織でどっぷりやってたが、ある日ダイナーで出会ったデビーに恋をして、足を洗おうとするのだが、トラブルに次ぐトラブルに巻き込まれていく。
凄腕ドライバーが犯罪組織の逃がし屋する設定も、アクションと音楽の同期も、それ自体はそんなに新しくもないものだが、とにかく新しい!斬新!かっこいい!場面の連続。「中高生がマネしたくなるようなカッコよさ」を体現している。声をサンプリングしてミックステープつくるくだりがあったが、映画自体が過去映画をサンプリングして昇華した提示みたい。 冒頭のジョンスペンサーアンドブルースエクスプロージョンのBellbottomsに合わせてのカーアクションシーンとかカッコよすぎて、この映画見てからBellbottomsリピート止まらなくなった。
全体として、ボーイミーツガールなロマンス話なのも良い。こじらせ野郎が夢想するロマンス。
スピーディーでテンポが良く、ダレる場面がない。日本のクソアクション映画にありがちな無駄なセンチメンタル、お涙ちょうだい、おおげさな絶叫は皆無。
映画秘宝のエドガーライトのインタビューで、BABY DRIVERは予算少なくて短い日数で撮ったって発言あってマジかよと思いIMDbで調べたら3千4百万ドルで、例えばワンダーウーマンやザマミーが1億ドル超えてるのに比べて確かに少ない。それでも超かっこいい映画つくるエドガーライト最高。
オタクが喜ぶディテールへのこだわりやこの監督なりの作家性がありながらも、誰が見ても文句なしに楽しめる作品。
9位 ハクソーリッジ
https://www.youtube.com/watch?v=nQOeAo02v-8
いろいろあったメルギブソンが繰り出した10年ぶりの監督復帰作は、破壊力抜群の危険エンタメだった!地獄とは何か、英雄とはなにか、それが知りたきゃハクソーリッジを正座して観るべし。映画の後半は、もう、地獄、ってタイトルでいい気がするほどに、THE 地獄絵図。
鑑賞後は、旨味しかないステーキを大量に食べたような気分になり、血の気がたぎって献血行った思い出。
実際にあった戦争での英雄譚であるから、戦争の恐ろしさを感じさせるものだが、とにかくエンタメとしての完成度が高い。膨大な情報量を凝縮してエンタメに昇華してぶちかましている。
地面に転がってる死体、死体に群がるずんぐりしたどぶねずみのショット、そこからの突然の戦闘開始。メーターが5くらいから100に一気になるみたいに、容赦なく地獄へとなだれ込む戦場シーンは圧巻。
前半のメロドラマのくだりも、テンポが良くて良かった。出会う、恋に落ちる、関係が発展、の無駄な説明の削ぎ落とされた爽快な運び方! 後半への伏線も自然な形で効果的に散りばめられていた。
また、名作には必ずユーモアの要素が入っているものだが、この映画にもそれがあてはまっている。ホーソーン基地での訓練、ホモソーシャルな雰囲気。フルメタルジャケットの訓練シーンのメルギブソン的解釈。ハリウッドってキャラクターのくだりとか、すごくくだらなくてすごく最高。ここでの各キャラクターへの人間味のある描写が、後半の地獄で活きてくる。
8位 雨の日は会えない、晴れた日は君を思う
https://www.youtube.com/watch?v=u4coId1pPHs
ダラスバイヤーズクラブ、私に会うまでの1600キロのジャン マルク ヴァレ監督、ナイトクローラーの怪演が記憶に新しくギョロ目ナンバーワン俳優として不動の地位を確立しているジェイクギレンホールが主演ということでこれは間違いなくおもしろいだろうと思って観たが、案の定素晴らしく面白かった。日本語タイトルの響きから、アフタヌーンティーがあいそうなおしゃれ映画だと誤解されそうだが、原題はDemolition。取り壊し、解体、爆破という意味の単語だ。この映画をまさにそういう映画。物理的な破壊と解体と心理的な破壊と解体。その先に再生があるのかどうかは、映画を観て確かめてほしい。
突然の事故で妻を亡くしてしまった男、デイビス。妻が突然消えて、悲しいのか悲しくないのかよくわからない、感情には何も現れず、普通に職場にも通う。しかし、それを契機に以前は気にならなかったことを感じるように、気にとめるようになる。水漏れしただけの冷蔵庫も、全てパーツ単位になるまで解体してしまう。はたから見れば狂気の所業だ。
自販機でM&Mを買おうとしたが、お金を入れても出てこない。デイビスは自販機の会社のカスタマーサービスへ手紙を書く。自販機の不良の苦情に合わせて、実は妻を事故で亡くしまして、という内容を淡々と綴るデイビス。そんなちょっとやばい手紙を送り続けているとある日担当者の女性、カレンモレヨから電話がかかってくる。デイビスは実際にカレンと会うことになる。カレンもまた、問題を抱えていた。
やがて会社に行くこともできなくなっていくデイビス。ニューヨークの人混みをサングラスにヘッドホンで、Free のMr Bigを聴きながら踊るシーンは非常に印象的な名場面。自分の住まいもハンマーで徹底的に破壊。とにかくあらゆるものを解体、破壊していくデイビス。まさに人生そのものが解体しかけていく。
デイビスの様子が終始、正常なのか異常なのかよくわからず、シューリアルなコメディ感を醸し出し、非常に独自で奇妙な印象を与えている。「永い言い訳」という、妻を亡くしたけどちゃんと感情で受け止めることができない男がもがく話の映画があったが、話の大筋としては似ている。
7位 マンチェスターバイザシー
https://www.youtube.com/watch?v=C_KDSAPybf4
マッドデーモンがプロデュース、ケネスローガン監督による、ベンアフレックの弟、ケーシーアフレック主演の映画。アメリカのマサチューセッツ州のマンチェスターバイザシーという町を舞台にした物語。
ケーシーアフレック演じるリーチャンドラーはかつてはマンチェスターバイザシーに住んでいたが、いまはボストンに住んでいる中年男。かつては妻がいたが、いまは離婚している。一人で、トイレ詰まりの修理などする便利屋業をしている。そんな時、兄が亡くなったという知らせを受ける。リーチャンドラーは、兄の残した息子、自分の甥にあたるパトリックチャンドラーの後見人に指名される。マンチェスターバイザシーを離れたくないパトリックだが、リーは頑なに故郷には戻らない、ボストンに住むと譲らない。それはなぜなのか。リーの抱える喪失の実体が紐解かれるにつれて、明らかになっていく。
マンチェスターの土地が思い起こさせるものをリーは、乗り越えられない。どうしても、乗り越えられない。元妻は言う、「あなたの心は壊れている。私の心も壊れている。」と。
どれほどにトラウマとなるような過去を抱えているのかは、映画を観て確認してほしい。おそらく想像以上にショッキングだ。
マンチェスターバイザシー、海辺の町に降る雪。その景色は、善悪を超越してそこにあるなにかを思い起こさせる。リバーランズスルーイットにおける、光反射する川の景色のような。その雪景色が映画を観た後も脳裏に焼き付いて忘れられない。いつかフィルム上映とかで観たいなぁ。
6位3度目の殺人
https://www.youtube.com/watch?v=znX_FGhGBBo
原案、脚本、監督のすべてを日本映画界、というか世界中からリスペクトされる是枝裕和監督が手がけた法廷サスペンス。福山雅治、役所広司、広瀬すずをはじめとした人気と実力を兼ね備えた演者たちが豪華。至高の映画。うまいなぁ、と何度も感嘆のつぶやきをもらしながら劇場を出た思い出。ラストのショットとか、もうお見事としか言いようがない。いつぶりかわからないくらい久しぶりに映画のパンフレットまで買ってしまった。
それぞれの立場の違いはあれど、弁護士、検察官、裁判官は司法システムという大きな船に一緒に乗って、同じ目的を共有している。訴訟経済、という言葉が劇中で出てくるが、なにが真実なのかということよりも、時として効率的に司法システムを回していくことが優先されてしまうという不条理と恐怖。この映画は観ている人にも徹底してなにが真実なのかわからないようにしながら、裁きだけは下されていく様を描き、その不条理と恐怖を突き付けてくる。
真実はどこに。誰が誰を裁くのか。生まれてこなかったほうがいいような人間はいるのか。
三度目の殺人、それが意味するところとは。
死刑制度そのものが孕む問題については、アランパーカー監督のライフオブデビッドゲイル(2003)でもエグく描かれていたな、と思い出したり。人が人を裁くシステムの内包する不完全さに考えさせられる。
また、この映画の美術監督は、岩井俊二のスワロウテイルや、タランティーノのキルビル、ヘイトフルエイトなどの映画で美術を務めた種田陽平。映画のためのセットとして作られた、法廷や映接見室が素晴らしい。主光源をどこに置くかにこだわり、空間の存在感を演出している。光さす、横浜あたりの港町のレトロな趣きのある法律事務所も重厚感があって、まさに超一流の、世界中どこに出しても恥ずかしくない映画のクオリティに貢献している。
パンフレットに載っていた、斉藤由貴の発言が印象的だった。
「答えが出ることだけが答えじゃない、答えが出ないことが、答えになる。現実にはこちらのほうが多いのでは」
5位 パターソン
https://www.youtube.com/watch?v=kpruzhc1zMY
ストレンジャーザンパラダイス、ダウンバイロー、コーヒーアンドシガレッツ、などなどで知られるジムジャームッシュ監督の4年ぶりの長編。主演はスターウォーズでカイロレンとしても大躍進中のアダムドライバー。アメリカ、ニュージャージー州の都市パターソンで、バスの運転手をするパターソンの一週間の話。パターソンという場所に住むパターソンという設定とか(高円寺に住む高円寺太郎さんみたいな)、アダムドライバーが、バスドライバーを演じるとか、ジャームッシュのそういうところ好き。
パターソンは、スマホは持たない、インターネットは使わない。どこか隔世の感があるスタイルで、規則的な生活を送る。仕事の合間の時間に、ノートに詩を書く。 仕事が終われば、彼女と夕食。その後は、犬の散歩に出て、行きつけのバーで一杯やる。なにか心に留まるものがあれば、それを詩にしていく。詩を書くこと、規則性のある日常を送ることで、世界と対峙しているパターソン。
便利なテクノロジーとか、市場経済のグローバル化とか、パターソンの生きる世界もそういうものの影響下にあるのだけど、パターソンは、粛々と、日々を綴り、日々を生きる。思えば、映画を観る我々も、ただ流れていく日々、枠が取り払われ拡大していく世界と対峙するために、一日の中に自分なりのルールを設け、リズムを作り、自分の世界を維持しているではないか。
スマホも持たない、贅沢しない、詩を書く、シンプルな暮らしっておしゃれ!ミニマリスト!みたいな映画ではない。狂気はすぐそばにある。世界のカオスはすぐそばに、そこかしこにあるからこそ、世界の中で自分を位置付けるため、秩序を守るために、日々のリズムを保ち、パターソンは詩を書く。詩を書くことはパターソンにとっては切実な行為なのだ。
ブルーチップのマッチ箱、ビアグラス、チェスボード、バーのマスターとの会話、失恋した男、つきまとわれる女、同僚の日常の愚痴、彼女が作ってくれるお弁当、犬の散歩、コインランドリーのラッパー。パターソンの日常に入り込む様々な物事をモチーフとして、パターソンはなぜ詩を書くのか。それは、なんでもないようなただ流れていく日常に句読点を打つためだろうか。仕事と生活と詩。 詩を書くとは、日常を切り取り、なんでもないような物事に価値を与えることか。
特別ではない、ただの日常を生きていくことに前向きになれるというか、勇気が湧いてくる映画だ。
4位 エンドレスポエトリー
https://www.youtube.com/watch?v=IaUNWEDzocs
エルトポ、ホーリーマウンテン、サンタサングレの鬼才アレハンドロホドロフスキー監督による、前作リアリティのダンスから3年ぶりとなる新作。リアリティのダンスから続く3部作の2作目にあたる。 劇中で青年期のアレハンドロホドロフスキー役を、息子のアダンホドロフスキーが演じる。
現在88歳のホドロフスキー監督だが、本作は信じられないくらいの力強さ。初期衝動の爆発のような漲るパワーに圧倒される。詩人として生きる人生を選んだ自分の肯定、詩人として生きるもの全ての肯定、己の心に従い生きる者の肯定。
初めてホドロフスキー映画を観ると、面食らう。それは、ホドロフスキーの映画では、言葉の上でのたとえを実際の行為で見せるからだ。心を裸にする、というが、ホドロフスキーの映画では実際に全裸になる。女性が付き合っている男性が遊ばないようにタマを握るというが、ホドロフスキーの映画では、実際に本当に、握る。
一見、受け入れ難く、理解し難いような表現も、「詩とは行為だ」だと劇中で言われているように、詩であり、行為なのだ。そう考えてみるとすごくわかりやすい。
印象に残る、心に留めておきたい言葉や場面がたくさんある。情報量すごい、1回観ただけでは整理のつかない映画体験。心の深いところで淀んでいるものが解消され、元気になる。
万人が喜ぶ映画ではない。18禁だし。しかし自分にとってすごく特別な1本となった。
3 位 ありがとうトニエルドマン
https://www.youtube.com/watch?v=8lC4Ty5bf5M
恋愛社会学のすすめ、などを撮ったマーレンアーデが監督、脚本。 ペーターシモニスチェク、サンドラフラーらが主演。ドイツ、オーストリア共作の映画。これらの名前に馴染みはなかったが、この映画を観た人の感想が軒並み高評価、これはマジやばい、というものだったので、観てみた。観て大正解だった。
サンドラフラー演じるイネスはドイツのコンサル会社でバリバリ働くキャリアウーマン。地元に帰って親戚の集まりの場でも、終始、仕事の電話対応に追われている。そんな娘の姿を見て、ペーターシモニスチェク演じる父親は娘の幸せを心配する。そこで父親が取った行動は、「トニーエルドマン」という偽名で変装(ヅラをかぶり、入れ歯を入れる)して娘の仕事の現場や社交の場に現れるということだった。
想像してみてほしい。自分の職場、出張先に自分の父親が変装して、偽名で別人になりすまして現れた状況を。超絶迷惑だ。それに加え、トニーエルドマンは笑えない親父ギャグの類の、奇行愚行を繰り返す。しかし、父親はそんなちょっと変わった方法で、娘になにか大切なことを伝えようとした。
EUの中でも経済格差はあり、ドイツの企業が比較的経済的に貧しく賃金が安い地域の労働者を活用し、利益をあげている。イネスの働くコンサル会社は、まさにその構造があって成り立つビジネスモデルを拠り所としている。末端の労働者は、合理化の名の下に利用され、都合によって整理されていく。 ユーモアを大切にしてください、と言い残すトニーエルドマン。
この映画は後半に、ほぼ確実に「あっ!!」と声をあげてしまうような衝撃的な展開が用意されている。2回くらいある。日常が非日常へと、空間がゆがむ。多くは語れない。映画を観てほしい。
「みな、成果を求める。義務を果たしているうちに人生は終わってしまう。子どものころの、あのことを忘れないように。その瞬間にはわからないものなんだ。」
ありがとう、トニエルドマン。忘れられない大切な一本になった。
2位 ブレードランナー2049
https://www.youtube.com/watch?v=F9dNIeHJQoI
伝説のカルト映画、リドリースコット監督のブレードランナー。その続編を、プリズナーズ、ボーダーライン、メッセージなどを手掛けてきた、本人もブレードランナーの大ファンと公言するドゥニ・ヴィルヌーブが監督した。主演は、ララランドでもその名をさらに知らしめた実力派、ライアンゴズリング。前作の主演のハリソンフォードも出演。リドリースコットは製作に絡んでいる。
劇場で最後まで観て、エンドクレジット流れる中ぼんやりラストの意味やいろんな場面の意味を考えてたら、グワーッツッツ!!!と感動の波が押し寄せてきた。打ちのめされた。映画館出たら、雨の新宿歌舞伎町。サントラ聞きながら歩けばそこはブレードランナーの世界だった。
腹の底を震わせるようなサントラも最高。
ライアンゴズリング演じるブレードランナー「K」は、レプリカントである。レプリカントというのは、まぁ、いわば人工的に作られた人間まがいの存在。労働用、愛玩用などに作られ、人間がそれを使用する。ブレードランナーは、旧式のレプリカントの残党を始末する、汚れ仕事を背負った警察のようなもの。
無機質な任務、無機質な生活の中で、ウォレス社(生態系が崩壊した世界で、合成農業で一儲けして、レプリカントの権利買い取って、でかくなった会社。)が提供するコンピュータープログラムのガールフレンドが部屋で待つ暮らし。そのKのガールフレンド、ジョイを演じるのはアナ・デ・アルマス。イーライロスのKnock Knockに出ていた女優だ。
ブレードランナーKはただのレプリカント。ジョイもただの商品。機械的に生み出された、替えのきく存在。しかし、人間らしさを求める。それは、人間らしい記憶があるからか。そう、記憶、というのがこの映画の鍵となっている。
ハリソンフォードの登場シーンもすばらしい。ブレードランナーをまだ観ていない人は、観てからこの2049を観ることを激しくおススメする。
あることがわかり、ボロボロになって歩くKの前に現れる、ウォレス社の広告。予告編でも使われていたこの場面。青い髪の裸体の女性が巨大ホログラムで出てくるシーン。ネタばれになるから詳しく書けないが、このシーンで私はシートから崩れ落ちて嗚咽にあえぐほどに、感極まってしまった。
感情を抑制して、機械的な仕事に従事して、プライベートの時間にはコンピューターのガールフレンド。それは、私やあなたのボンクラな、うだつのあがらない日々とある意味重なる部分があるのではないか。人間らしさを求める全てのロンリーハートが震感する映画体験!
1位 ノクターナルアニマルズ
https://www.youtube.com/watch?v=AuNdHjQ3THU
シングルマンで監督デビューしたトムフォード監督による2作目。ギョロ目の王子ジェイクギレンホールと、ドゥニ監督のメッセージやDCユニバースのジャスティスリーグでも活躍の魅惑のアラフォー、エイミーアダムスが主演。
観終わった瞬間、思わず、うおおっ、と唸ってしまった。紙で指を切るようなエンディング。何十年も語り継がれているクラシックなマスターピースのような、もう、死んだがな!という気分になる素晴らしいラスト。
ある日、エイミーアダムス演じるアートギャラリーのオーナー、スーザンのもとに、昔別れた夫エドワードから、突然、小説がおくられてくる。そのタイトルはノクターナルアニマルズ。夜の獣たち。
夫のハットンとも倦怠期気味のスーザンは、昔の夫、繊細で優しかったエドワードに思いを馳せながらページをめくる。しかし読み進めていくうちに、スーザンはかつてエドワードにしてしまったある行為に向き合わざるを得なくなる。
映画は、小説の中の世界の話と、現実とを交互に映し出す。小説の世界は、驚くほどに暴力的で、実際にあったスーザンとエドワードの間にあった過去の出来事との関連を感じさせるものだ。
エドワードは、ノクターナルアニマルズ、という言葉を、誰にあてはめているのだろうか。スーザンの親か、スーザンの夫のハットンのような人物か。それとも、表面上俗物を嫌っているスーザンか。 それら全員か。
人間関係の中で、当事者が意図していないにもかかわらず、結果的に、決定的かつ暴力的に相手を傷つけてしまう可能性への恐怖、トラウマが根底にあるような作品だ。
エドワードはなぜノクターナルアニマルズという小説を書いて、元妻スーザンに送ったのか。それを読んで、スーザンの心はどう変化したのか。その答えは、ラストシーンをどう解釈するかで変わってくるだろう。
冒頭でいきなりすごいものがアップで出てきてワッ!となって、ラストでグサーッ!とやられる。観た後は、思考がぐるぐる止まらない。そんな映画。2017年、ベスト作品!
以上、2017年公開映画、私的ベスト10でありました。
2018年もたくさん映画を観たい!!!
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