田中邦衛の魅力とは。田中邦衛おすすめ映画5選。

田中邦衛が好きだ。

子どものころ「北の国から」で田中邦衛を観て、その佇まい、表情、セリフ回しから、なにか只者ではないパワーを、子どもながらに感じていた。

その只者ではない感は、言語を超えて、人間の本能に訴えかけるものがある。
羽仁進監督による渥美清がアフリカでリアル現地の人々と交流しながらプレハブ小屋を建てる「ブワナトシの歌」という映画があるが、そこでは渥美清は日本人であることを超えて「なんだかすごい人」として受け入れられる。

渥美清がそうであるように、田中邦衛にも、地球の裏側の人にも伝わるような凄み、人間力があるように思う。

田中邦衛と言えば、「北の国から」であるのは間違いない。しかし、「北の国から」の放送期間も、その前も、田中邦衛は別の様々な作品に出て、「五郎」とはまた別の、多様な役柄を演じていた。

意外とあまり知られていない田中邦衛の魅力を存分に味わうことのできる映画を以下に5つ選んだ。

1、落とし穴 (1962)

監督: 勅使河原宏
脚本: 安部公房
出演: 井川比佐志、田中邦衛、佐々木すみ江

映画公開時、田中邦衛 30歳。真っ白なスーツに身を包む、クールな殺し屋として怪演している。

安部公房と勅使河原宏がタッグを組んだ映画作品一作目である。戦後日本のシューレアリズム表現!

誤解が誤解を呼び、炭鉱の組合長同士が陥ってしまう悲しい顛末。悲しいが、しかし、どこか滑稽。

「落とし穴」は、超越的な存在によって下される運命のことか。ただの自滅か。思考をぐるぐる離れない。濃密な白黒の映像。

真っ白なスーツでスクーターを颯爽と乗りこなす殺し屋役の田中邦衛。「北の国から」からでは考えられないほどの無慈悲な男を演じる田中邦衛が新鮮で鮮烈。

映画の中で、死んだ者は幽霊となり再登場するが、死んだときの状態が未来永劫続くという設定がおもしろい。お腹をすかせたまま死んだら、ずっと未来永劫お腹が減ったまま幽霊としてすごさなければいけない。

どこまでいっても過酷な労働が待っているという、炭鉱の労働者がはまりこむ落とし穴。1962年の映画だが、今の日本にもあるよな、と感じさせる、「落とし穴」。

2、大脱獄 (1975)

監督:石井輝男
脚本:石井輝男
出演:高倉健、田中邦衛、菅原文太、室田日出男、郷鍈治、木の実ナナ

高倉健に濡れ衣着せる卑劣な悪役として、当時43歳の田中邦衛が熱演。

大脱獄というタイトルだが、脱獄のくだりはあっさりしている。さすが石井輝男。

濡れ衣着せられ投獄された高倉健が脱獄して、木の実ナナ演じる女と出会い、いろいろあり、女と別れ、自分に濡れ衣を着せた田中邦衛に復讐をするという話。

飢餓と寒さで発狂して全裸で雪にダイブする郷鍈治と室田日出男のシーンが見ものである。CGとかじゃなく、本当の雪に、本当の裸の大人がダイブしているわけだからね。

とにかく、この映画での田中邦衛は、「北の国から」では考えられないほどにゲスのかたまり泥まんじゅう野郎である。田中邦衛を高倉健が盛大にぶちのめすカタルシスに酔いしれることができる作品。

3、アフリカの光 (1975)

監督:神代辰巳
原作:丸山健二 脚本:中島丈博
出演: 萩原健一、田中邦衛、桃井かおり

萩原健一との同性愛にも見まがうほどの男の友情を演じる、43歳の勢いのある田中邦衛が堪能できる。

1975年は田中邦衛にとって大忙しの1年であっただろう。出演映画は10本に及ぶのだから。そのうちの1本である、この作品。

春になればマグロ漁船に乗ってアフリカに行けると冬の羅臼にきた萩原健一と田中邦衛演じる男二人組。しかし、羅臼の漁師相手の賭博を凌ぎにしているヤクザやその連れの女と関わっていくうちにアフリカ行くどころじゃなくなりすったもんだある、という話。

田中邦衛がイカ釣り船に乗って仕事して風邪ひいて無理して風邪をこじらす。それでも無理して働こうとする田中邦衛を止める萩原健一。ふたりのとっくみあいのその様をカメラは生々しく映す。田中邦衛の白い肌着が脳裏に焼きつく。

萩原健一のおそらくアドリブをふんだんに混ぜた演技が最高にかっこいい。また、キャメラマンは姫田真佐久(ひめだ しんさく)なわけで、カメラワークもスタイリッシュでささくれ立っていて生々しくて最高。

この映画を観ていると、冬の羅臼はまじで寒そう。そりゃ田中邦衛も風邪をこじらすのも無理もないよ。

4、トラック野郎 一番星北へ帰る(1978)

監督:鈴木則文
脚本: 鈴木則文、中島信昭、掛札昌裕
出演:菅原文太、愛川欽也、大谷直子、黒沢年男、せんだみつお、田中邦衛

トラック野郎を厳しく取り締まる法の番人、鬼教官の田宮を46歳の田中邦衛が熱演!

とにかくトラック野郎は最高である。この作品は8作目。当時、年末映画として公開されたわけだが、タイトルシーンから、すでにけっこうきわどいピンクなシーンをかましていて、ただのファミリー映画なんかじゃねえぞ!というパンクな精神をびしばし感じさせる。女性の喘ぎ声のタイミングで、「監督 鈴木則文」の文字が出るわけだからね。

ゲスと人情と友情のトラック野郎どもの群像劇であり、物語のクライマックスは菅原文太演じる星桃次郎が「人生かけたスピード違反」でトラックを爆走させて仲間を助けたりする展開が定番なのだが、今作では、速度を無視して爆走している桃次郎が運んでいるのは、鬼教官の妻を助けるための医療器具!妻を助けるか、法を守るか、葛藤しながらも、職務を遂行する田中邦衛!

ラストは泥まみれのトラックとパトカー。それぞれの仕事をやり抜いた男たちがまぶしい。プロレスの名試合のような余韻がある。

桃次郎がダムに沈んだ自分の故郷のことを話すシーンは名シーン。ダムを指しながら、「あそこに学校があってなぁ…」としみじみ話す桃次郎に涙。経済成長の陰で沈められた故郷、トラック野郎の悲哀。

5、私をスキーに連れてって (1988)

監督:馬場康夫
脚本:一色伸幸
出演:三上博史、原田知世、布施博、竹中直人、田中邦衛

きびきびと動く、仕事熱心で部下に優しい理想の上司を56歳の田中邦衛がハツラツと演じきっている! この時は、すでに「北の国から」で吾郎役もバリバリやっていたことを考えると、きびきびした動きがさらに味わい深い。

ホイチョイプロダクション三部作の一作目。昭和から平成へと向かう、バブルの時代のアッパーな空気を感じることのできる映画。JR SKI SKI. ユーミンの曲がまき散らかっている。

自分の生まれた年の、世の中の空気はこんな感じだったのかとか考えると感慨深い。

三上博史演じるスキー大好き男が、ゲレンデでスキー初心者の原田知世に恋に落ちて話が展開していく話。

三上博史演じるスキー大好き男は、自分の部署とは違うスポーツ部署でのサロットというスキーブーツのブランドの開発の手助けをする。そのスポーツ部署での上司、そして三上博史にとってのスキーの大先輩でもあるナイスガイが、田中邦衛演じる田山さんなのだ。

バレンタインデーに行われるサロットの新製品発表会に向けて、物語は高まっていく。とあるトラブルにより焦りながらもリーダーとしてきびきび事態に立ち向かう田山さん。田中邦衛の円熟のきめ細やかな演技、顔で語る力がすばらしい!

オフィスでタバコ吸うのが普通だったり、まだパソコンがないから、計算を紙に書いてたり、そういう80年代末のオフィスの様子がおもしろい。映画は、その時代の空気、景色をそこに記録するという意味でも価値のあるメディアだ。

以上、5つの田中邦衛出演映画について書いた。

今、田中邦衛はどうしているのか。次の作品はあるのか。様々な憶測は飛び交うが、真相はわからない。

確かなことは、田中邦衛のあの笑顔は、独特な佇まいは、フィルムに焼き付けられているということ。

これからも、田中邦衛が出ている映画をどんどん観て生きたい。

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映画、音楽、本のことを中心に、役に立つかどうか度外視して書きたいこと書こうと思っています。サブカルなイベントもよく行くので、そのレポートみたいなことも書くかもしれません。