地井武男といえば、どんなイメージがあるだろう。
「ちい散歩」などで見せた優しそうな笑顔を思い浮かべる人が多いだろう。
パブリックイメージとしては、味のある演技をする名バイプレーヤーであり、優しいおじさん。
しかしそれは、地井武男の晩年の姿。かつて、地井武男は松田優作に匹敵するようなハードボイルドでクレイジーな役柄を演じていた。
特に、70年代前半、1942年生まれの地井武男のアラサー時代のギラギラ感はすごい。
この当時の作品でのギラギラ感は時間が経ち色褪せるどころか、この2018年においてより一層、小さくまとまった私を含む昨今のヘタレ若者のケツを蹴り上げるパワーがある。
そんなわけで、70年代の硬派でクレイジーな地井武男が堪能できる映画を5つ選んだ。
反逆のメロディ (1970)
監督: 澤田幸弘
脚本: 佐治乾、蘇武者路夫
出演: 原田芳雄、地井武男、藤竜也、梶芽衣子、青木義朗
仁義をなくし金と権力に魂売ったヤクザと、取り残された不遇の若い衆の対立、反抗を描いたストーリー。
原田芳雄のワイルドな魅力が全面に出ている中、地井武男も、すぐブチ切れて喧嘩っ早いが熱いチンピラを熱演!
70年代の地井武男は、なにやら悪そうなチンピラなメガネをかけていることが多い。この映画でも、悪そうなチンピラメガネ姿で登場している。
悪そうなメガネをかけた地井武男
原田芳雄、地井武男、藤竜也、梶芽衣子が一緒にクラブみたいなとこでビールを飲むシーンがあり、胸が熱くなる。
仲間と一緒においしいそうにビールを飲む地井武男
待ち合わせの時間のぴったりに相手が現れたら、「本当に会いたい時には1時間前からくるもんだ!俺は1時間前からきてたぜ!」とか言って、1時間前からビール飲んでワクワクしてる地井武男のチャーミングさ。
60年代の輝かしい映画の時代の後、70年代のアナーキーなニューヒーローたちの映画の幕開けとなるような作品。
野良猫ロック ワイルドジャンボ(1971)
監督: 藤田敏八
脚本: 藤田敏八、永原秀一
出演: 地井武男、藤竜也、梶芽衣子、夏夕介、前野霜一郎、范文雀
ヤングなパンクな者どもの野望と計画と賭けと、それらが孕む空中分解の物語。
オープニング、ジープを藤竜也、梶芽衣子、夏夕介、前野霜一郎の4人乗りでオフロードを走っている。そこから4人、走って競争。藤竜也と夏夕介が上半身裸になって走って競争。なんだこの青春感は!
地井武男は含めたその5人はペリカンクラブという仲間たち。退屈もてあましては、アジトにたむろし、悪いことしている。
仲間とジープに乗っている上半身裸の地井武男
若者たちの退屈もてあまして刺激求めている感じ、私の世代的には池袋ウエストゲートパークを思い浮かべる。グループのリーダーの切れ者を地井武男がクールに演じている。
魅惑と謎の女、范文雀がミステリアスに地井武男に近づく。 正教学会という宗教団体を一泡吹かせてやろうと。正教学会というのは当時からある某組織を戯画化したものだろう。70年代から新興宗教は荒稼ぎをし続けている。
范文雀のミステリアスさを警戒していた理性あるクール男な地井武男だが、乗っていた馬から落ちた范文雀を助けに行った時に上目遣いで近づかれ「参ったなぁ」と心許してしまう。最高!
范文雀の色じかけ
まいったなぁ、となる地井武男
范文雀とのデートには悪そうなメガネでキメる地井武男
後半、男女六人海物語みたいな楽しそうな光景になる。いたずらでケツを出しながらジープで浜辺を駆け抜ける藤竜也、夏夕介、前野霜一郎。 地井武男も含め男たちは基本半裸。梶芽衣子はビキニ。貴重な映像である。
男女6人夏物語の最中にある地井武男
左から、前野霜一郎、夏夕介、梶芽衣子、藤竜也
ラストの終わり方が、ゴダールの映画のような、「えっ?!」という後味なのも良い。
エロスの誘惑(1972)
監督: 藤田敏八
脚本: 松田昭三
出演: 中川梨絵、地井武男、福地健太郎
ロマンポルノが描く、生と死、瞬間と永遠。生が横溢する時、死と破滅にたどり着く!
ゴム工場で働く若い男、福地健太郎の筋肉と汗、肉。工場の中で、明らかに浮いている存在、色気ほとばしる中川梨絵。
場末のゴム工場とバッハの音楽が合わさり、インダストリアルでありながらインテリジェントな風合い。
情事の後の地井武男
埃まみれのゴム工場に仕事を求めやってきた「なにやらわけありな過去を持った男」地井武男と、強欲な工場長の女として工場に住み込む中川梨絵との欲情まみれた絡み。地井武男の筋肉と肢体が、中川梨絵の白い肉と縺れ合い眩しい。
住み込みの部屋ででかい薬缶に湯をわかし、大きな桶のようなものに入り裸で身体を洗う中川梨絵。スポンジで身体にこすりつける泡のエロス。
また、とあるシーンでの「赤チン」の詩情がすごい。バッハの音楽が流れる中スローモーションで赤チンが中川梨絵の乳房にかかっていく鮮烈な映像。福地健太郎の白いブリーフと赤チンの対比。
ラストの、「押入れから見てて…バーン!」展開。そこからの破壊のスペクタルは圧巻。
濡れた荒野を走れ(1973)
監督: 澤田幸弘
脚本: 長谷川和彦
出演: 地井武男、山科ゆり、井上博一
冒頭、悪そうなティアドロップを装着し、コーラを飲みタバコをふかす、男、地井武男。路上で行われていたベトナム戦争救済募金で集まった金を強盗で奪い、その勢いに乗じてその家の娘を犯す。いきなりの鬼畜展開。
犯行の後、家の主人が警察を呼ぶ。すると、次の場面で、パトカーのトランクに、犯行の時に身につけていた全身タイツを隠す地井武男ら強盗&レイプ犯たち。そう、まさかの、こいつら警察だったのか!展開。
仲間とコーラを飲む地井武男。こう見えても警察です。
腐った警察が、組織ぐるみで、金を奪い、女を犯し、暴虐の限りを尽くしていく。
ある日、精神病院が火事になり、そこからある男が逃げ出したことで話が一転する。逃げ出したのは、警察の腐敗に気づいて正そうとしたために半殺しにされ精神病院に収容されていた地井武男扮する原田の上司、中村だった。原田たちは口封じのため中村を殺そうとする。
最後の場面、不気味に微笑む原田。これは、ある種の「父殺し」の話か。原田にとっての中村は、警察における、先輩、多くを教わった存在。そして、知りすぎた存在。それを殺したとき、原田は悪魔になる。
「刑事さん、あなたもかわいそう」という山科ゆりのセリフが印象的。
前科おんな 殺し節(1973)
監督: 三堀篤
脚本: 松田寛夫
出演:池玲子、杉本美樹、片山由美子、地井武男
前科持ちで、刑務所で同じ部屋をシェアしていた姉ちゃんたちが繰り広げる復讐劇。70年代のピンキーバイオレンス映画のスター、池玲子と杉本美樹の共演が楽しい、強い女性が男どもをぶちのめす映画。
父親をやくざに殺された池玲子。池玲子が刑務所に入ったのはその復讐でやくざに襲いかかったから。いつかまた出所した暁には必ずやくざの親玉をこの手で仕留めると心に誓っている。しかし、そのやくざの親玉のおんなは、ムショで絆を深めた杉本美樹だった! もつれる運命。
地井武男はバイプレーヤーとして、日本酒の一升瓶をつねに抱えている狂犬男のテツを熱演。最後は、割れた日本酒の瓶を武器にしての大乱闘。
一升瓶を持ちながら暴れる地井武男
死闘の果てにお互いを認め、
「あたしを出し抜くなんて、あんたまるでマムシだね。」
「そういうあんたは、ガラガラヘビかい。」
と、お互いをへびに例えての池玲子と杉本美樹の掛け合いが秀逸。
以上、ハードでクレイジーな70年代の地井武男を堪能できる映画5本について書いた。
地井武男はもうこの世にはいない。しかし、その勇姿は、フィルムに焼き付けられている。そういう意味では、2018年の今も、生きている。
実は、昔から、地井武男の時折見せる鋭い眼光にはずっと気になっていた。「ちい散歩」でも、笑顔の合間に、ふっと見せる漢の眼差しが心にひっかかっていた。70年代も、往年の時も、その時々の姿で、地井武男はかっこいい男であり続けた。
https://www.youtube.com/watch?v=BRw2WZ6MxHQ
春の宵、「ちい散歩のテーマ」を聴いて、地井武男に乾杯したい。
ありがとう、地井武男。
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