高校2年の冬、ZAZENBOYS 3というアルバムに出会った。ZAZEN BOYSというバンドのことはそれより以前から知っており、フロントマンの向井秀徳がいたバンドNUMBER GIRLの代表的なものとZAZEN BOYSの1枚目と2枚目の音源は聴いていた。
それらが好きだったので、当時の新譜であるZAZEN BOYS 3を高鳴る期待とともにに地元のCD屋である玉光堂の視聴機で聴いた。一曲目から不穏なギターに乗せて「社会の窓が開きぱなし」と歌われ、その後の曲でも一貫してシュールな世界観が展開された。ZAZEN BOYSのそれまでの音源でもシュールな曲はあったが、例えば「半透明少女関係」のようなアッパーな四つ打ち、「KIMOCHI」 みたいなメロウな詩情、「CRAZY DAYS CRAZY FEELING」のようなアーバンで洒落たナンバーが含まれていて、それがフックになっていた。しかしそういう曲は、このアルバムに一曲もなかった。
困惑した。これは変なアルバムだ。これっていいのか?わからなかった。ただ、つまらなくはなかった。手放しで、最高、とも言えなかったが。とりあえず、買おうと思った。これはきっとクラスでも買う人はいないだろうと思ったからだ。背伸びをしたい年頃だった。
そして何を思ったか、このアルバムを、当時好きだったクラスの女の子に貸した。自分はこんな尖ったものを、変なものを好んで聴くんだ、というアピールをしたいという自意識をこじらせた挙句の行動だった。案の定、その女の子と付き合う夢は叶わなかった。
いまになり、そのZAZEN BOYS Ⅲを聴きなおしてみると、よい。普通によい。当時は、なんだかよくわからないアルバムだ、という印象が強かったが、今の自分の耳で聴くと、素直にかっこいいアルバムに思える。
考えてみると、「冷凍都市の暮らし、あいつ姿くらまし」というZAZEN BOYSの楽曲の中で繰り返し出てくるフレーズが内含している都市に生きる者の感じる狂気というようなテーマも、社会人になり都会で暮らし初めてからなんとなく肌で感じられ理解できるようになったものの、北国の高校生だった当時の自分にはいまいち理解できないものでもあった。冷凍都市と言っても、冬にはマイナス20度になる、比喩ではないマジの「冷凍」都市、というか町、冷凍タウンに住んでいた。
改めてこのZAZEN BOYS Ⅲを聴き返しバンドの歴史の中で位置付けてみると、その後のZAZEN BOYSの「ZAZEN BOYS 4」「すとーりーず」で展開されるような、よりシンセをフィーチャーしたミニマルで奇天烈な80sニューウェーブ感もある楽曲の方向性へと向かう前の、移行期にあたる作品なのではないかと感じる。
「Friday Night」のシンセと直線的なビートのドラムによるニューロティックなイントロからはじまり、「繰り返される諸行は無上 よみがえる性的衝動冷凍都市の暮らしあいつ姿くらまし」といういつものフレーズをかました後に前衛的かつクールなギターが入ってくる感じの秀逸さ。そして、「Tombo Game」の気だるい中にも狂気を孕んでいる感じから、「Pink Heart」での楽曲のメイキング過程を切り取ったようなセッションをはさみ、「RIFF MAN
」で法被をきたレッドツェッペリンと呼ぶにふさわしい轟音に雪崩れ込む流れの素晴らしさ。
全体を通して、このアルバムからアヒトイナザワにかわりメンバーになったドラムの松下敦の音がドスンと迫力があり録音が生々しい。
「半透明少女関係」のようなナンバーガールからの流れをくんだダンサブルなナンバーは当時から素直にかっこいいと思って好きだったが、このアルバムに入っているような曲こそ、長く聴き続けていける類のものだと感じる。
このように10代の頃にZAZEN BOYSⅢのような音楽に出会い、向き合うことができたのは、背伸びをする気持ちがあったからだ。自分の安全圏から飛び出して、音楽を知る、探しに行く、その姿勢があったから、世界を広げることができた。より豊かな楽しさにつながった。
自分の好きなものに固執して、自分の価値観、自分の安全圏にとどまっていたままでは、食べ物でいえば「駄菓子が好き」のレベルから這い上がることはできない。
ただ、音楽に教養主義みたいのを持ち出すのもウザい。全然よさがわからないのに、それが権威だからといって無理して聴く必要はないと思う。
しかし、好きな音楽から手を伸ばしその周辺や遠いルーツを模索することは、より大きな豊かな世界へと開けていることは確実にいえる。つまらない教養主義を辟易するあまりに閉じてしまうのはもったいない。閉じてしまうのは、教養主義でマウントとるために音楽聴いて悦に浸っているのと同じくらい愚かなことだ。
背伸びをして音楽をきく。音楽だけじゃない。背伸びをする姿勢が豊かさにつながる。文化に敬意を払う。文化と戯れる。文化の中に飛び込む。それは素敵なことだろう。退屈は敵。楽しい方へと進みたい。
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