電車の中の人々は、あるOLの日記を読んで ~中野 タコシェ~

昨日、やはり気分が晴れず、ブロードウェイに行くことにした。仕事が終わり、中野ブロードウェイ近くの餃子屋で手羽先餃子やらを食し、3階のタコシェへ。タコシェ(tacoche.com)とは、紀伊国屋や丸善では売ってなさそうなマニアックな本、自主流通本などを売っている小さな店である。

まず目に入ってきた大判の本『緊縛事故予防ガイドブック』、なんか役所が出している防災マニュアル的な装丁で、中を見てみると、緊縛による様々な障害(うっ血、しびれ、麻痺等)を避けるための方法が、淡々と記されてあった。よくある荒唐無稽なことをあたかも実用書のように記すことにより、シュールな笑いを呼ぶという類の本ではなく、好事家に対して、緊縛を行うにあたっての必要な知識をまとめたいというような使命が感じられる本であり、すこし気圧された。

ここに来ると、蓼食う虫というか、人はいろんなものを好きであり、それで生きていけるのだなと思い、たぶん自分もやっていけるだろうと、毎度の感慨にふけっていると、私が求めていたものが、平積みにされているのが目に入ってきた。それは、『あるOLの日記』という冊子である。私は、この作者Momoyamaの前作『電車の中の人々』を、数か月前このタコシェで 購入した。たくさんある本の中から、なぜその『電車の中の人々』を手に取ったのだろうか。おそらく表紙があまりにも個性的過ぎたからだと思う。その表紙とは、ケント紙のようなものに写真がそのまま切り貼り(切り貼り風ではなく、切り貼りそのもの)されているものであり、そのようなものは、さすがに他にはなく、思わず手に取ってしまった。中を開いてみると、中も切り貼りの絵と、文章によって構成されていた。他に数冊置いてあった『電車の中の人々』は、コピーで出来ており、私が手に取った本一冊だけが、リアル切り貼りで作成されていたように思う。

内容は、毎日1時間かけて電車通勤しているという作者が、電車の中でみた人々の姿を絵と文章でスケッチしたものだった。例えばこうだ。

〇月×日 △△線
キャワイイ顔したおっさんだ。
窓際族っぼいな。~中略~ 彼は実はかつて、誰もが羨む良いものを沢山所有していたが、人生を歩む途中でそれを他人にもぎ取られたり自分自身でもうっかりボトボト落としたりしてかなり減ってしまったけど、一番良いものだけは死ぬまで抱えられるって感じがする。そんな妄想にふけっていた。

絵と文章に私好みのシニカルな距離の取り方が表れおり、購入したのだ。

今回の新作『あるOLの日記』は、こんな風である。

3月〇日
毎年、春が近いと今やっていることをすべてやめたいって、思ってしまう、遺伝子か何かに関係してそう。

4月〇日
また変な夢見た。恋仲になりそうな妙な雰囲気のおじさんが「男でさ、女みたいな名前のやついるじゃん、名前の終わりに美とかついているやつ。あれはね、親が、女の名前にすることで男が受ける分の人生の辛さを軽くしてやって下さいって親が願ってる名前なんだよ」って私に語っていた。

6月〇日
朝、支度しながら思いだし笑いをしている自分に気づいたんだけど、私のポジティブなんてこれくらいで別にいいやって思った。

とか、そんな感じで、OLの日記がつづられている。他にも小学生の頃、気持ち悪い乾物屋のおやじに、しつこく暗算の勉強させられた話、職場のさみしんぼおじさんとの交流譚、家族の話など、とりたてて文章にする必要なさそうな、しかし、読んでみると何か通じ合えるような話ばかりだ。

映画ライターの高橋ヨシキがクローネンバーグの映画『クラッシュ』について語っていたのをよく思い出す。『クラッシュ』は、自動車事故に性的興奮を覚える人々を描いているが、それは人間が自由だということにつながっている、みたいなことを語っていた。自動車事故に欲情する人もいるし、SMマニア、死体愛好家とか、もっと身近でいえば、70年代映画マニア、ガンマニアとか、本当にみんないろいろなものを食べて生きている。タコシェにくるとホッとするのは、普通のサラリーマンがもしかしたら、あんな嗜好をもっているのかも、それでかろうじて息ができてるのかもと思えるからだろうか。『あるOLの日記』では、次にように書いてあった。

1月〇日
毎日同じ職場でも、心は常にどこかへ行っている人でありたい。

私も、そうでありたい。

 

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