ついに大堀彩は試合をすることなく、4年に1度のアジア大会を終えた。
昨日、日本女子バドミントンチームは、団体戦で48年ぶりの優勝を飾った。シングルス3選手、ダブルス2ペアの構成による国別対抗戦で、強豪中国、インドネシアを打ち負かし、見事優勝したのである。
日本の団体戦女子チームの構成は以下の通りだ。(カッコ内は生まれ年と世界ランキング【8月16日付】また、シングルスとダブルスのランキングはそれぞれ別)
第1シングルス 山口茜 (1997年 2位)
第1ダブルス 福島由紀 (1993年 1位) 廣田彩花 (1994年 1位)
第2シングルス 奥原希望 (1995年 8位)
第2ダブルス 高橋礼華 (1990年 2位) 松友美佐紀(1991年 2位)
第3シングルス 大堀彩 (1996年 17位)
第1、第2という順番は、世界ランキングの高い選手から配置するというルールのため、大堀はランキング上位の山口、奥原より先に出場することはできない。先に3勝したチームの勝利というシステムである今回のアジア大会では、第2ダブルスのタカマツペアまでですべて勝敗は決し、大堀の出番は回ってこなかった。
今回の団体戦チームでの大堀の位置づけこそが、そのまま東京オリンピック出場への選考レースにおける立ち位置を象徴している。オリンピックには日本から女子シングルス2人までしか出場できない。国際大会での実績による選考レースにおいて同世代の山口、奥原という傑出したライバルより良い成績を残さなくては、東京オリンピック出場は不可能だ。
タカマツペアが優勝を決めた瞬間、その2人の周りに他のメンバー8人が駆け寄った。試合を見守っていたメンバーはトレーニングシャツだったが、第3シングルスとしての出番に備えるためウォームアップしていた大堀は、ユニフォーム姿であり、その顔には笑みが宿っていた。
自分自身が一度も試合をすることなく勝ち取ってしまった優勝に虚しさは感じなかったのだろうか。それとも、for the team という教科書的なスポーツマン像を本当に体現していたのだろうか。私には大堀の表情が安堵の笑みだったように思えてならない。
もしタカマツペアが負け、最終試合の第3シングルスの試合が行われた場合、試合の雰囲気は尋常なものではないはずだ。尋常でない、異常なものを欲してしまう心。おそらく大堀が山口、奥原に勝ち、東京オリンピック出場を勝ち得るために必要なものは、タカマツペアが優勝を決めた瞬間、どこか満ち足りない表情を見せてしまうような心象のような気がする。―なぜ試合を終わらせてしまったのか、私がきめるはずだったのに―
強い人は、チャンピオンというのは『異常者』だ
9度の全日本チャンピオンに輝いた卓球の水谷隼は、自著でそう記した。
大堀彩の姿をしばらく追ってみたい。バドミントン好きの女の子に訪れる異常な瞬間を待ちながら。
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