佐藤允(さとう まこと)を知っているだろうか。
2012年に惜しくも亡くなってしまったが、50年代から70年代にかけての戦争映画、クライムサスペンス映画などでの存在感たるや甚だしい。
和製ブロンソンとも言われたそのあじわい深いフェイス。ニカッと笑うそのスマイルが印象的だ。
意外なところだと、もののけ姫のタタリ神の声を演じていたりする。その声の表現力もお墨付きだ。
魅力にあふれた、実力派俳優、佐藤允。その魅力を堪能できる映画を5つ選んだ。
独立愚連隊 (1959)
監督:岡本喜八
脚本:岡本喜八
出演:佐藤允、三船敏郎、鶴田浩二、など
大東亜戦争末期の満州の戦場、従軍記者としてフットワークよく動き回る佐藤允演じる荒木。戦場という極限状況の中で、どこか飄々としていて風通しがよい荒木の佇まいに、佐藤允のニカッと歯を見せるスマイルがよくはまっている。
モラルが腐敗している軍部。そのなかで、飄々と、正義感とか良心とか言ってたら命が何個あっても足りない、とうまくやる愚連隊の風通しのよさ。
愚連隊という落ちこぼれアウトロー集団が一番まともで、表面上しっかり規律守ってるやつらが一番腐ってるという皮肉。自身が戦地を経験した岡本喜八監督が描く、戦場の滑稽さと、不条理と、悲惨さ。
危険が迫ると手が痒くなる、目をみれば、嘘をついているかどうかわかる。戦地において生き延びるために要求されるのは、そういう勘であるという描写が、なんだかとてもリアル。
50年以上前のモノクロ映画であるが、驚くほどにエンタメとしてよくできており、辛気臭くなく、重くなく、ぐいぐい引き込まれて楽しめる作品。佐藤允が射撃の腕をみせる序盤の場面が終盤で回収される!映画的カタルシス。
しかし、そのような軽やかさがあるからこそなおさら「死にたくないやつはみんな死んでしまった。生きていてもしようがない俺だけ生き残ってしまった。」と放たれる生々しい言葉がずしりと映画を観た後も残り続ける。
血と砂 (1965)
監督:岡本喜八
脚本: 岡本喜八、佐治乾
出演: 三船敏郎、佐藤允、仲代達矢
反骨の戦争映画。ディキシージャズの音楽隊が奏でる「聖者の行進」のメロディーが明るいほどに、ああ悲しい!
佐藤允は、三船敏郎演じる歴戦の名うて軍人である小杉に惚れ込む、気風のよいナイスガイ、犬山一等兵を演じている。
音楽学校でてすぐで兵隊になりまともな訓練を受けていない10代後半の少年たち、小杉、犬山一等兵、天本英世演じる葬儀屋。彼らは行けば死ぬことが見えている焼き場へと向かう運命に。
戦場という極限状況での人間の滑稽さ、愚かさ、無力さ。銃弾の雨の中、少年たちが最後に手に取ったのは銃や手榴弾ではなく、楽器。ハーモニーを保っていけるか。ひとつまたひとつと各楽器の音が消えていく。うぅ…。
ただ、決して全編にわたり重々しい映画ではない。童貞の少年たちが、水に濡れたセクシーな女性を見てアレが反応してしまい、それをみた三船敏郎が「お前ら若いなぁ」って言ったり。戦場だということを一瞬忘れるほど、なんだか青春群像劇のような清々しさもある。
そして、戦争映画でありながらも、活劇として純粋に面白くて、ぐいぐい引き込まれる。
その日、昭和20年、8月15日。「小杉さんよう、なんでみんな死んじまったのかのう。」そのセリフが残す余韻の重さ。答えのなさ。戦地に行って、生き残った者による「なんでみんな死んじまったのかなぁ」という問い。その重さ。
「こいつらは20にもならないうちに死んでしまった。悲しい曲では報われない。ディキシーで派手に弔ってくれ!」
悲しい曲では報われない! 暗い映画では浮かばれない! 弔いであり、痛烈な風刺。
血とダイヤモンド (1964)
監督:福田純
脚本:小川 英
出演:宝田明、夏木陽介、佐藤允、水野久美、中川ゆき、石立鉄男、藤木悠
ダイヤモンドを4人組が強奪するが仲間割れ! 私立探偵や医者とその娘もまきこみ泥沼密室劇へと雪崩れ込む。白黒のシャープな画面、クールな演出。パワーゲームの天秤がスリリングに動き、サスペンスが持続し高まり続ける。
ワイルドすぎる佐藤允。キザな宝田明。良い顔した役者たちが勢ぞろい!
苦悶の汗の佐藤允が「捕虜にごぼうを食わせてやったのに、木の根をくわせた!と訴えられ戦犯死刑になった」父親の話を語る。勝った側が正義なんだ!という諦念、リアリズム。
後半の密室劇での心理戦が圧巻。
床にちらばるダイヤモンドの惨めさ。たかがこんな石ころのために、血を流し、汗を流し、おかしくなっちまう。
皆殺しの霊歌(1968)
監督 加藤 泰
脚本 加藤 泰、山田洋次
出演 佐藤允、倍賞千恵子、大泉晁、たこ八郎
白黒の重厚なトーンで展開するノワール サスペンス。
佐藤允の濃い顔に白黒がよく映える。
次から次へと女たちを残忍に無慈悲に殺していく佐藤允演じるシマ。狂気の殺人マシーン。
佐藤允が飛び込んでカツ丼を頼んだ店の娘、倍賞千恵子演じるハルちゃん。彼女もまた、わけありであった。なんと、手に負えない兄を殺した過去があったのだ!
山田洋次、タコ八郎、倍賞千恵子、手に負えない兄。この組み合わせは、そう「男はつらいよ」。寅さんみたいな兄は本当だったら妹に殺されてしまうということか。「男はつらいよ」がいかにファンタジーな話かわかる。「男はつらいよ」は1969年。この映画と併せて観るとまさに裏と表。
佐藤允演じるシマは、冒頭は無慈悲な人の心ないシリアルキラーに見えるが、その印象はあることが明らかになるにつれ変わっていく。イタリアのマッシモ・ダラマーノ監督のWhat have you done to Solange?(1972)という映画のプロットを彷彿とさせる展開。
特筆すべきは、影のある美人を演じた倍賞千恵子。幸が薄い訳ありな美人の役がこんなに合う女優がいるだろうか! 華がある。美しい。不幸。最高!
とある場面ではサイケな音楽に乗せて踊り狂う女たちの様子が映る。日本でも1970年までLSDは合法だったというのだから、当時のサイケ文化を伺い知れる。
トラック野郎 御意見無用 (1975)
監督:鈴木則文
脚本:鈴木則文、澤井進一郎
出演:菅原文太、愛川欽也、佐藤允 中島ゆたか
菅原文太演じる星桃次郎、愛川欽也演じるやもめのジョナサンの二人のトラック野郎を中心に、恋と友情とトラック野郎たちのプライドかけた勝負がめくるめく人気シリーズの一作目。
佐藤允は九州の凄腕トラック野郎、ドラゴンを演じているぞ!
菅原文太扮する星桃次郎はトラック野郎が集うダイナーで働く、中島ゆたか演じる洋子に恋をする。しかしながら、洋子の兄は九州の曲者トラック野郎のドラゴンときたもんだ。
ドラゴンと一悶着ありながらも、洋子と関係を深めていく桃次郎。しかし、洋子には以前婚約した人が! 富豪を轢き殺して、その賠償金で苦しめられていたのだ。そいつもまた、トラック野郎だった…。加速する人情。トラック野郎、星桃次郎の一世一代の爆走!
暑苦しい人情ドラマでありながら、桃次郎を筆頭にトラック野郎たちのアナーキーな振る舞いが楽しめる。恋には一途な桃次郎だが、それ以外ではトルコ風呂に通うし、警察はぶっ飛ばすし、痛快な暴れ太鼓。
鈴木則文映画に通底している権力や体制への中指たてたアナーキーさが、トラック野郎を、毒のない人情喜劇から一線を画する作品に仕立てあげている。
以上、佐藤允の魅力に触れることのできる映画を5つ紹介した。
これらの映画を観て、佐藤允のようにニカッと笑ってビールを飲もう。
純生 ドドンと 音頭
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