仕事に追われ、へこへこ生きる中年男の前に現れたプーさん、それは糸井重里だった?! 硬派な絵作りや経年劣化ぬいぐるみモーションの確かな映画的クオリティが大人の味わいも醸す、親子で見ても一人でみても楽しめそうなワーキングクラスの心震わす映画、「プーと大人になった僕(原題 Christopher Robin)」を観てきた。

大人になると、意味ばかり追い求めてしまう。

意味。意味を求めても、果たしてその意味に「価値」はあるのか。

空虚な面談を重ねても、どこにもたどり着けませんよ。

ハプニングバーで動画撮られて、恐喝されたらたまったもんじゃない。

映画を観るのが一番。

帯状疱疹で弱った身体ひきずって「プーと大人になった僕」をみてきた。

プーと大人になった僕/Christopher Robin (2018)。監督はネバーランド(2004)、ワールドウォーZ(2014)などのマーク・フォースター。AAミルンの原作を、Alex Ross Perry, Tom MaCarthy, Allison Schroederらが脚本。ユアン・マクレガー、ヘイリー・アトウェル、ブロント・カーマイケルらが出演。プーの声にジム・カミングス、イーヨーの低音ボイスにはブラッド・ギャレッドらの布陣。

舞台は戦後まもないロンドン。大人になったクリストファーロビン。会社の旅行鞄会社部門で働くわけだが、戦争もあったし旅行行く人全然いなくて旅行鞄なんて売れません!非生産部門として会社で切り捨てられる間際!少しでも経費をおさえようとチマチマやりくりする中年の中間管理職なクリストファーロビンだが、上司に週末でなんとか打開策を考えろと押し付けられる。

週明けの会議でいい案が出せなければ、部署ごとオサラバだと告げられる。しかし、週末は娘と妻との旅行が!しぶしぶ仕事するハメに。寄宿学校はじまる前の夏休みの旅行で楽しみにしてた娘は意気消沈。 へこへこと灰色の週末を過ごすクリストファーロビンだったが、そこに子ども時代に封印したはずのプーが現れる…。

ユアン・マクレガーが気弱で上司のなすがままの中年クリストファー・ロビンに扮して、曇っていて鬱屈とした40年代のロンドンでストレス感じながらも溜め込んでへこへこ生活。ワーキングクラスには旅行や娯楽にあまり縁がなかった時代。あくせく働くひとびと。息がつまりそうな、曇ったロンドンの街並み。暗い硬派なライティングがそれを視覚的に伝えてくる。

また、経年感バリバリのボロぬいぐるみな出で立ちのプーとその仲間たちの怖かわいさも目に楽しい。イーヨーの声が低く味わい深くて、よかったなぁ。 ブラッド・ギャレット。15作目のディズニーでの声優仕事だとか。クリストファー・ロビンにしか見えないぬいぐるみたちかと思いきや、普通に他の人たちにも見えている、しゃべって動くぼろぬいぐるみたち。経年劣化してるぬいぐるみってだけで持ち主の情念とか吸い込んでそうで怖いのに、しゃべって動くから尚更こわい。それでいてかわいい。怖かわいい。

そして、この作品の肝となる、プー哲学! 中年になりせこせこと生き、つまらない人間に成り果てているクリストファー・ロビンに、プーが諭す「なにもしないこと」の大切さ。People say nothing is impossible. But I do nothing every day.( 人々はなにもしないことは無理だというが、僕は毎日、なにもしないこと、をしている)。Doing nothing often leads to the very best kind of something.(なにもしないことがステキななにかを生む。) などの言葉が心に刺さる。大人になると、効率、意味ばかりを求め、なにもしないことができなくなる。生活に遊びがなくなる。仕事に追われる父、勉強ばかりの娘! それじゃあよくないよ、幸せにはなれないよ、と人生哲学をプーは言ってのける。

そして、結果的にそのようなプーの考え方をヒントにして、クリストファー・ロビンは仕事の窮地を脱出し、ブレイクスルーを起こす。篠田麻里子のグッドライフラボでプーがゲストに出たらずっぱまりだ。グッドライフとはなんたるか、そのために大事なことはなんたるか。そんなことに思いを馳せさせられる映画だ。


なにもしないことに忙しい。

そのようなプー哲学は、大衆娯楽を支えるものでもある。この映画は、ディズニー製作。娯楽の大衆化、その権化としてのディズニーと、この映画でプーが言っていることのマッチング具合。小沢健二が2017年フジロックでのモノローグで話していた現場型の娯楽産業の話を思い出した。人は休みがあって、休みがあってもお金に余裕があるから、現場型の娯楽に時間を費やす。お金があっても休みがなければ、「なにもしないこと」もできない。

「なにもしないこと」で時間を過ごす。かつてそれは、上位階級の贅沢であった。ワーキングクラスは蟻のように働き、疲れて眠るだけ。でも、それだと「旅行鞄」は売れない。プー哲学でもって、みんなもっと、「なにもしないこと」をしよう。それは第三次産業が幅を利かす現在に至るまでの社会での重要なテーマ。

プー哲学はつまり、吉本隆明であり、糸井重里であるのかもしれない。

なんでもない日、おめでとう。

嗚呼、グッドライフを送りたい!

 

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