2018年夏、僕は、村上春樹のラジオを聴いた。そして、10月21日、また村上春樹のラジオがやってくる

村上春樹がラジオ番組をやる。その中で自ら選曲、そしてトークまで行う。そう知らされたら、ある程度村上春樹の作品に接してきた人ならば、多少驚くのではないだろうか。書き物以外の媒体での露出を極力控えてきたのが村上春樹である。

今年8月5日にTOKYO FMで放送された【村上RADIO ~ RUN&SONGS~】は、私にとって衝撃だった。動画サイトの普及が著しい昨今でも、村上氏の動画は極めて少ない。あるとしたら、海外の文学賞を受賞した際の挨拶みたいなものぐらいしかアップされてないはずだ。私は村上氏の声を思い出せない。

「こんばんは  村上春樹です」

この言葉で番組が始まった瞬間、大げさでなく感動した。これが村上春樹の声なのか。というより、やっぱりムラカミハルキは存在していたのか。生きていたのだと。

ムラカミハルキの声は、低くて、かっこよかった。なんというかキザな話し方なのだが、しゃべっているのがムラカミハルキなので、納得せざるを得ない。

「これからの55分、僕の好きな曲をかけて、曲と曲の間に少しおしゃべりもします。いただいた質問にお答えもします。皆さんと一緒に楽しくひと時を過ごせれば、と思います。」

ラジオでの村上春樹は、予想とは違い、社交的だった。村上氏に関する記事などでうかがい知れる性格は、人嫌いという印象である。私は、千葉の千倉にあるバードランドというペンションに数回泊まったことがある。ここはその名からわかるようにオーナーがジャズの好事家で、JBLの本格的なスピーカーを完備しており、全国からジャズマニアが訪れるその筋では有名なペンションだ。村上氏も千葉のマラソン大会に出場した際、ここを宿として利用したことがあるらしく、その時の話をオーナーから聞いたのだが、村上氏は部屋にこもって本ばかり読んでいたとのことである。彼ほど知名度が高くなると、人との距離を取りたくなるのも無理はないだろうが。

ラジオでの台本を読んでいるような素人感も、それは新鮮な感じでよい。大注目の一曲目は、ドナルド・フェイゲンの「Madison Time」だった。村上春樹がAOR(古いかもしれないが、この表現を使用したい)の大家ドナルド・フェイゲンを選ぶのは、超ストレートすぎて、驚いたが、それはやはり村上氏のことである。ジャズ ピアニストのレイ・ブライアント作曲の作品のライブ盤を持ってくるあたりにこだわりが感じられる。

このあと村上氏の著作でも取り上げられてたビーチ・ボーイズ、それとブルース、ジャズシンガーのベン・シドラン、アレサ・フランクリンのマイウェイなどが流れ、村上氏の高校時代のマラソン大会や皮膚・性病科?の話などで、盛り上がった。

露出を極力避けた代表的な作家といえば、村上氏も翻訳を手掛けたJ・D・サリンジャーがいる。数十年の隠遁生活によって築きあげられた神秘的なイメージは、家の周りに高い塀をつくって、人づきあいを避けて生活しているなどほぼ都市伝説化している。

この村上氏のラジオによって、村上氏のイメージは神秘的なものではなくなったかもしれない。だが、そんなイメージの維持より、人生の終盤に差し掛かった今、好きな音楽を通して読者と交流したいという気持ちがあったのかもしれない。

村上春樹はもう一度ラジオ番組を行うことを決めた。10月21日日曜日の19時から【村上RADIO~秋の夜長は村上ソングズで~】と題された番組が放送される。

「僕はみんなのために音楽をつくるんだ。誰にでも、馬鹿にでもわかる音楽をつくりたい。そうすれば、誰ももう馬鹿ではなくなるから」

村上春樹は前回の番組の最後でスライ・ストーンのこの言葉を引用した。次回の番組も馬鹿にでもわかる楽しいラジオ番組になるはずだ。

僕は本当に楽しみだ。

 

【前回のラジオで流れたプレイリスト】

https://itunes.apple.com/jp/playlist/%E6%9D%91%E4%B8%8A%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%82%AA20180805/pl.u-GPLaTJ6dlJ

 

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