秋も深まり寒くなってきた。
2018年も終わりに近づいてきて、時間の経つ速さに度肝を抜かれている。
秋の夜長には、映画館で映画。
心温まる映画を観たい。
小学生が温泉宿で若おかみを務めるという話があるという。
小学生が、若おかみ。
人はギャップに弱い。
汚い大人たちの蠢く歌舞伎町のど真ん中を通り抜け、平日のレイトショー、小学生の女の子が出ている映画を観に行った。
若おかみは小学生 (2018) 。監督 高坂希太郎(那須 アンダルシアの夏など)、原作は令丈ヒロ子、亜沙美(絵)による講談社 青い鳥文庫、映画脚本は吉田令子(リズと青い鳥など)、声優陣は、小林星蘭、水樹奈々、松田颯水、遠藤璃菜、小桜エツコら。DLE マッドハウス 製作。2018 4月から9月 アニメを放送。今作は94分にまとめあげられた劇場版。
小学生6年生の女の子、関 織子、通称「おっこちゃん」は交通事故で両親を亡くしてしまい、祖母の旅館に住み込むことに。そこで目にした幽霊「うり坊」にそそのかされるままに、小学生ながら旅館「春の屋」の若おかみとしてやっていくことに! 様々な問題を抱えた客へのもてなし、クラスメイトであり温泉街のなかでも随一の高級旅館である「秋好旅館」の跡取り娘の真月、通称「ピンふりさん」との衝突など奮闘をへて、若おかみとしておっこちゃんは成長していく….
この作品、完全に期待値を上回ってきた。
絵の感じもほんわかしたアニメといった印象で、元気いっぱいな小学生の若おかみが愉快な幽霊たちや温泉街の人々とドタバタ交流していくハートフル成長譚なのだが、核にあるものが切実すぎてみた後の余韻すごい。
「おっこちゃん」は両親失くしても、前向きで、明るくて、頑張り屋で、まさに快活な女の子の類型を体現している。しかし、おっこちゃんはただ画一的にポジティブというわけではない。両親を突然失くして、それを受け止め、割り切って、明るく振舞っているわけではない。むしろ、全く受け止められていない。痛みとして感じられていないのだ、あまりに痛すぎて。
明るく過ごすおっこちゃん。ウリ坊や旅館の人たちとのハートフルな日常。そんな中で、感じていなかった痛みにふと気づかされる場面、おっこちゃんはまさに、息もできなくなるほどに苦しむ。それを観て、グッと胸が締め付けられる。ほんわか日常アニメに油断してた脇腹にずどんと一撃。そして、ある日泊まりに来た客との交流で、その問題に真正面から向き合うことになる。
似たようなテーマは、永い言い訳(2016)や、雨の日は会えない晴れた日は君を想う/Demolition(2016)といった映画でも描かれていた。残されたものが、大切な人の死をどう乗り越えるのか。こられの映画と同じく、「若おかみは小学生」もまた、心理療法のような映画だ。
ある場面での「いえ、わたしは、春の屋の若おかみです」 というおっこちゃんのセリフに、涙の決壊!ブワー! あれ観て、感極まらない人っているのか。
春の屋にやってくる様々なお客さんも味わい深い。中でも、占い師のお姉さん、グローリー 水領(声はホラン千秋)が印象的だった。そこはかとないセクシーさ、ワケあり感。占いが仇となってフラれてしまったというのも味わい深い話で。温泉というのはなにかしらの事情で心身が弱ってしまった人々が集まる場所でもある。男はつらいよの寅さんも、温泉宿なんか巡ってたりね。来るものは誰も拒まない、春の屋の湯。温泉に行きたくなる。
エンディングは藤原さくらの「また明日」という曲。トータルサウンドプロデュースにはなんと、mabanua! どちらも今年の朝霧JAMに出演しておられた。ノスタルジックでありながらも洗練されたアレンジで映画本編の後に聴くと沁みる。
“みぎ ひだり
どっちに行こうか
知らないことはいくつもあるけれど
泣き虫な あの日を追い越してくよ 君と”
「泣き虫なあの日を追い越してく」というフレーズが映画のテーマと合致していて、エンディングでも涙の防波堤の決壊。
94分というタイトな上映時間も好感が持てる。各エピソードがダイジェスト版のような趣もあり、原作、そしてテレビアニメ版でじっくり追ってみたくもなる。
隣で見ていたおっさんは泣いていた。子どもから汚い大人まで、幅広い層の心に響く作品だ。
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