スーパーヒーロー映画が数多く作られ、広がるユニバース。
なにやら禍々しい見た目のダークヒーローが主人公の映画があると聞いた。
そして、トム・ハーディが主演というではないか。
どれどんなもんかと思い、へっこらよっこら観てきた。
ヴェノム(2018) 。監督はルーベン・フライシャー(ゾンビランドとか)。脚本はジェフ・ピンクナー、スコット・ローゼンバーグ、ケリー・マーセルら。トム・ハーディ、リズアーメット、ミシェルウィリアムズらが出演。
現場型レポーターとして仕事するトム・ハーディ扮するエディ・ブルック。彼女であるミシェル・ウィリアムズのアパートに転がり込み仲良くやっていたが、ある日、宇宙探索を進めるライフ財団への取材の中で、財団にかけられている人体実験疑惑についてぶっこみ、そのことで会社をクビになる。ぶっこんだ情報は彼女のパソコンを盗み見て得たものだったため彼女からも見放される。一方、ライフ財団が宇宙探索船で持ち帰ったのは、人に寄生する、なにやらネバネバした地球外生命体であった。ひょんなことからそいつはエディに寄生! 取り返そうとするライフ財団の手先に追われることになるが、どうやらエディは寄生されたことで超人的なパワーを身につけはじめており、バッタバッタと追手を返り討ちにしていく…
この映画、主役のエディ・ブルックは冒頭は仕事があるが、すぐさま無職になり、彼女からも愛想をつかされる。その結果、映画の中では基本的にジーパンとパーカー(汗ジミたっぷり)に身を包んだ無職として立ち現れる。それに加えて、別れた彼女にできた新しい男の職業は外科医。男のプライドとしてはズタボロのはずだが、なんとなくその元カノの新しい男とも仲良くなっちゃう。そんな人柄の良さがエディの魅力。
そしてそんな愛すべきエディを演じるのがトム・ハーディだというのが素晴らしい。隙のない硬派なバイオレンスを体現した役柄が多かったトム・ハーディだが、今作では見た目はガタイ良くてタトゥも入って強面でも、その内実は無職で彼女に振られ、へこへこ職探すボンクラ男を演じている。そのギャップがたまらない。エディは選ばれし者、なにか「持ってる」者ではなく、持たざる者。つまり、映画を観ている私やあなたや凡百の人々と同じ側の人間だ。
そんなエディにひょんなことから寄生する、ヴェノムという名前のシンビオート。シンビオートは地球外生命体で、人間に寄生しないと地球では生きていけない。寄生されたエディは超人的な力を得るわけだが、シンビオートは誰にでも寄生して、うまく共生できるわけではない。なんでヴェノムとエディの相性が良かったのかというと、二人にはある共通点があったから。どちらも、それぞれの場所で「負け犬」だったのだ!こんな胸熱なことってあるか。「ヴェノム」とは、負け犬同士の合体、コンビ結成の、出会いの話なのだ!エディとふたりあわせてヴェノム。俺たちヴェノム。どっちが欠けてもヴェノムじゃない。
地球外生命体であり、見た目も暴力的でダークで怖いヴェノムは人の脳みそや膵臓などのゾウモツ系が好物。しかし、同時にチョコレートやコロコロポテトも好きな、憎めないやつ。ヴェノムに寄生された後、エディがなにがなんだかわからなくなって、とりあえず元カノと新しい彼氏が食事してるレストランに行って、ヴェノムの衝動のままに水槽の生きたエビとか食ったりして、それをエディの理性が食い止めたりする。その掛け合いはまさにヴェノムのボケとエディのツッコミ。これをニヤニヤ楽しめるかどうかが、この映画を好きになれるかどうかを分けるのではないか。
「ヴェノム」に対する批評家のレビューはきびしめだ。Rotten Tomatoesという映画レビューサイトでは、批評家のレビューだと満足度29%となっている。脚本がだめだとか、スパイダーマンとの関連はどうしてくれるんだとか、コメディとしてもスーパーヒーローアクションとしても中途半端だとか、そんな辛口のレビューが並ぶ。しかし、オーディエンスのレビューだと満足度87%となっている。この差はなぜに生じてしまっているのか。それはやっぱり、負け犬同士のコンビ結成、俺たちヴェノム!の掛け合いに楽しさと愛おしさを感じてしまうのが、映画を観る凡百の人々の正直な気持ちなのだからなんじゃないか。私はすごく好きです、ヴェノム。
確かに、最凶のダークヒーロー!というふれこみがあるわりには、PG13ってのもあるだろうが、殺戮シーンに血は出ないし、脳みそ大好きヴェノムが人間の頭を食いちぎるとこもカメラに映らないといった具合に、暴力表現はぬるい。かといって、デッドプールばりに歯に衣着せぬ毒舌があるわけでもない。アンチヒーローというわりには、尖り具合に乏しいのは確かだ。しかし、今作でヴェノムはダークヒーローとして描かれていないのか?いや、粘液ついた舌をベロベロ出す様子や、その真っ黒で、ガタイのいい造形はまさにダークヒーローですよ! あと、目つき。白目しかない、というのは、まともなコミュニケーションができないっていう印象を与えますから。怖いですよ、あれに睨まれたら。
それはともかく、やはりこの作品は子どもが観ることをかなり意識して作られている。トムハーディの出演の経緯としても、トムハーディの息子がヴェノムが大好きで、いままでの自分の出演作品はとても刺激が強過ぎて子どもに見せられないものだったが、ヴェノムなら子どもも好きだし、子どもが観られるくらいの暴力表現で作られるのではないかと考えたからというのだから。
しかし、そんなぬるくて子ども向けなものを、ヴェノムという素材でやる必要があったのか?と考えると、なんとも言えない気持ちになる。おそらく、当初の予定では、もっとバイオレントで大人向けのダークヒーロー映画を想定していたに違いない。監督のルーベン・フライシャーのフィルモグラフィーを見ても、ゾンビランド(2009)、ピザボーイ 史上最凶のご注文(2011)と、バイオレントで毒のあるコメディを中心に手掛けてきているのがわかる。制作過程での大人の事情で、牙が抜かれ、今作のような仕上がりになったのだろう。
決して名作というわけでもないし、ぬるいし中途半端でツッコミどころおおい場面も多いが
、無職でボンクラなトムハーディの佇まい、トムハーディとヴェノムのど根性ガエル的楽しさ、その2点で、ビールでも飲みながら緩く楽しめる映画。 こういう映画も好きです。
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