師走だ年末だといっている間に
もう2018年は虫の息!
去年の今頃はスターウォーズ 8 で ああだこうだ言っていた。
つい昨日のことのようだ。
でもよくよく振り返ると、楽しかった2018年。 いい映画もたくさん観たし、人生楽しい。30代は楽しい予感しかない。
そんな年末、塚本晋也監督の最新作、「斬、」(2018)を観てきたぞ。
へっこらよっこらよっこらしょと。
渋谷のユーロスペースで!
「野火」以来の、塚本晋也監督作品。
大きな期待を胸に、鑑賞したわけです。
■スタッフ、基本的な情報
鉄男(1989)で長編デビューし、サイバーパンクといったジャンルに括られるような、数々のパワフルな作品で世界にカルト的なファンを持ちリスペクトを受け続ける塚本晋也監督の、監督/脚本、最新作。 前作までと同様、塚本晋也が代表の海獣シアター製作によるインディペンデントな作品。
塚本晋也映画では初出演となる池松壮亮、蒼井優らに加え、監督脚本の塚本晋也、バレットバレエ、野火といった塚本映画にいくつか出演してきた中村達也、そしてオーディションで選ばれた新人、前田隆成らが出演!
■あらすじ
池松亮介演じる都築杢之進は腕の立つ浪人。しかし、彼は刀を恐れる。人を殺せば、それが次の殺しへと連鎖することを知っているからだ。
同じく腕の立つ浪人、塚本晋也演じるサワムラは、幕末の世で名をあげようと、農民のところで手伝いをしながらひつそり暮らしている杢之進を江戸へと誘う。
蒼井優扮する農民の娘、ユウ。モクノシンを愛する。モクノシンもユウを愛する。しかし、サワムラがそれを揺るがす。モクノシンを殺しへと導くサワムラ。
葛藤を続ける杢之進。痺れを切らしたサワムラは、もう逃げられないところまで杢之進を追い込んでいく。
追い詰められたモクノシンは…
◼️タイトルに込められたもの
映画冒頭、タイトルの、「斬、」が出てくる時、その漢字の一画目の線がぐーっと伸びて、まるで一直線の刀にようになる。刀のイメージ。残酷で、暗澹とした印象を与えるべく「斬、」というタイトルがつけられた。
そして、「、」がついていることにも意味がある。それは、相手を斬る、つまり殺して、一件落着、ピリオド、なのではなく、斬って殺したところから、またなにかが始まってしまう。「斬ったら、どうなる?」という、問題提起を意味しているという。また、「、」が流れる血、涙も連想させる。
◼️ずっと温めてきたテーマ
塚本晋也監督は「一本の刀を過剰に見つめる若い浪人」というアイデアを、20年以上も温め続けていた。アイデアのままそこから長らく動かなかったところを映画へと推し進めたのは、日本を含め世界的に濃厚になっていく「戦争の気配」であったという。
平和を感じられる日常では暴力描写は、人間に備わる暴力性に訴えかけ、それを満足させる娯楽、ファンタジーとして機能した。そして、塚本晋也監督の作品はそれに意識的であった。
しかし、暴力がリアルなものとして差し迫ってきた中で、塚本晋也監督は、より後味が悪く、見るに耐えない、近づきたくない暴力を、特に前作の「野火」から顕著に描くようになった。
「野火」から引き続いて、居ても立っても居られない、切迫した気持ちで今作の製作は進められた。
◼️鉄と人間
長編デビュー作の鉄男(1989)では「鉄と人間の合体」というテーマが描かれていた。田口トモロヲ演じる男に、塚本晋也演じる「ヤツ」が鉄との合体を促し、実際に合体してしまうサイバーパンク、SFホラーであり、鉄との合体の造形、コマ送りでラフに編集された映像の醸し出すパンク感が、理屈抜きでかっこいい!カルトな傑作である。
それから30年近く経っての新作「斬、」では、人を殺す武器である刀、つまり鉄、を見つめ続け、それと一体化してもいいのか? 人を殺してもいいのか? と葛藤する男、池松亮介演じる都築杢之進に、塚本晋也演じる腕の立つ浪人のサワムラが「殺せ! 一体化しろ!」と迫るストーリーが描かれており、鉄男で描かれたテーマのその先が、ここで展開されている。
都築杢之進は、鉄と合体するのか?
彼の下す決断に、そのドラマに、観客がどう感じるのか。
そこに、塚本晋也監督は「今作の大きな意味がある」という。
◼️刀の存在感、音響効果
この映画における主役とも言える、大切な小道具、刀。
デザイン的にも、重量感が出るように特注されているというが、それに加えて、やはり観ていて唸らされるのは、その「音」だ。
重量感があり、そして、これで切られたら痛いだろうな!と生々しく想像させる、リアルで、身がすくむような、刀の音。鉄の音。
例えば、北野武監督映画が「銃声」を実際の銃声を録音して使用し、生々しさ、重さを出すことで、忘れられないトラウマ的な映画体験を観るものに与えているように、この「斬、」でも、その脳裏にこびりつく、身体的に震えがくるようなリアルでヘビーな刀の音で、同じようにトラウマ的体験を与える仕上がりになっている。
音響効果を担当したのは、六月の蛇(2003)以来の塚本組で、監督が全幅の信頼を寄せているという北田雅也。この方、今年公開された、大正時代の女相撲の力士とアナーキストの交流を描いた青春群像劇であり、現代にも通じる差別や人間の愚かさも描き突きつけた傑作、「菊とギロチン」の音響効果も手がけているとか。
◼️暴力とエロス
映画秘宝2019年1月号で、「暴力を描く以上、そこからエロチシズムを抜いてしまうと、なんだか絵空事になってしまう」と発言している塚本晋也監督。
実際に「斬、」では、杢之進とユウの、生々しい交わりが描かれる。特に印象的だったのは、壁を挟み二人が向き合い、杢之進が欲望我慢ならんといった勢いで壁に指をつっこみ、ユウがそれを艶かしく咥えて舐め回すシーン。 舐め回していたと思ったら、唐突に思いっきり指を噛みちぎろうとするところなんか、エロスとタナトス、性欲と殺意が混ざり合う、すごいシーンだ。
また、刀と同化するかどうか葛藤する杢之進が、湧き上がり噴出する殺しの衝動とそれに付随する性欲のぶっかたまりをクールダウンさせるために、手淫するシーンがある。血がたぎり、血を抜く。下品な印象が入り込む余地のない、切実で全身全霊の手淫をみせられた!
◼️リベンジ映画のヒロイズムに対する、リアルな暴力の怖さ
今年はリベンジ映画をたくさん観た。ナメてた相手が殺人マシーンでした!なリベンジ劇は、そこで描かれる非道な行いに対するリベンジがエクストリームであればあるほど、観る者の暴力への欲望を満足させ、復讐のヒロイズムに浸らせてくれる、痛快な娯楽だ。
そのようなリベンジ映画はそれはそれで大変素晴らしく、大好きなのだが、この「斬、」では、そのような「殺しのヒロイズム」に対して、疑問を投げかける。
ぶっ殺して、なにか収まるのか? いや、ぶっ殺したところから、始まってしまう。そして、一度はじまってしまうと、ただひたすらにぶっ殺し続けないと、収まりがつかなくなってしまう。人間性を超えた、まさに鉄と人間の合体した人ならざるものと化し、一人殺すこともためらっていたはずの人間が、1000人殺すことも平気でやってしまう。「斬、」は、観るものの胸ぐらつかんで問いかける。殺す! それで、どうなる?、と。
その問いかけは、殺しと暴力への恐怖のリアルな身体感覚が、この映画全体に刻み込まれているために、リベラルな平和主義者の上からの説教ではなく、本気な、切実なものとして胸に迫る!!
◼️石川忠の音楽
鉄を打ち叩く演奏家、石川忠! 塚本晋也作品の「音響体験」には欠かすことのできない、石川忠さんの音楽。鉄のインダストリアルな響き、野生の音!
この「斬、」の音楽も、石川忠さんが手がけるはずだったが、2017年、亡くなってしまう。
しかし、どうしても、他の音楽ではダメだと考えた塚本晋也は、まだ映画に使用されていない石川忠さんの音源素材、その断片を、石川忠さんの奥さんの協力もあり、組み合わせ、編集し、「斬、」の劇伴として仕上げた。
音の中で、石川忠さんの魂が躍動しているかのような、インダストリアルで生々しい、まさに入魂の音!
音楽のクレジットには、「石川 忠」の名前がしっかりと刻まれている。
◼️映像
美しいライティング! 山形の映画村が撮影場所だという。
自然の美しさが、その中で行われる、非道な人為を際立たせる。
雨のシーンも、光と緑と雨の塩梅が素晴らしく、眼福な仕上がり。
予算も撮影時間も限られたインディペンデントな映画でありながら、それに甘えることのない完璧な絵作りに感服。
塚本晋也の映画監督としての矜持と、それを支える優秀な塚本組スタッフ。マーケティング先行や大きな予算のプロダクションの中で時に忘れられてしまう、映画づくりのロマン、ワクワク感が、映像のすみずみから伝わってくる。映画づくりとは、冒険である、と!
◼️で、どうなのこの映画
もう、今年ベスト作品ではないでしょうか !
蒼井優がまさにハマり役だった。そして、池松壮亮の色気がすごかった。そして殺気立つ時の、塚本晋也の目つき! 鉄男のころのギラギラ感からなにも失っておらず、ゾクゾクした。
その志、完成度、尖り具合。どんなに金を積んだCGでも表現できない、血の通った、熱い映画表現がここに。 かっこいいぜ、塚本晋也!!
グッドライフは、グッドムービーとともに。
2018年も終わりゆく。
来年も映画をたくさん観るぞ ! !!
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