ヤーバーなタイの刑務所が怖すぎる! 暁に祈れ/ A Prayer Before Dawn を観てきた感想

ヒューマントラストシネマ渋谷で、暁に祈れ/A Prayer Before Dawnを観てきた。

コアチョコがコラボTシャツも作っているこの作品!硬派なルックスがグッとくるね。

年末の渋谷で、よっこらへっこらと、観てきたぞ。

◼️スタッフ、基本的な情報

監督は、ジョニーマッドドッグ(2008)のジャン・ステファーヌ・ソヴェール。脚本はジョナサン・ハーシュビーン、ニック・ソルトリーズ。ビリー・ムーアの自伝の映画化。

ビリー・ムーア役として、ジョーコール。

味のあるムエタイコーチ役として、ソムラック・カムシン。

そして、ムショの所長役として、レフンのオンリーゴッド(2013)で最強のカラオケ鉄拳オヤジとして君臨していたヴィタヤ・パンスリンザム。

その他、入れ墨が半端ないマジの元服役囚の方々が多数、出演している。

■あらすじ

タイで活動する白人ボクサーのビリー・ムーアは「ヤーバー」というタイの覚せい剤にハマり、捕まり、タイのムショにぶちこまれる。

そこは、ヤーバーよりもまさに「ヤバイ」、タイのならず者の中のならず者の巣窟であり、生き地獄と言えるような場所だった。

絶望的な状況で、心が折れかけるビリーだったが、なんとか生き延びようと、ボクサーだったのを活かし、ムショでのムエタイマッチに己の望みをかける…。

■ビリー・ムーアが放り込まれるマジやばい状況

とにかく、ビリームーアがぶちこまれたそのタイのムショがやばいのなんの。

大部屋のようなところに放り込まれるわけだが、まず、そこで待ち受けるならず者たちの、顔面にまて及ぶ全身タトゥーっぷりに度肝を抜かれる。

この迫力抜群のタトゥーの方々は、実際に服役されていた方々だというのだから、迫力もひとしおなのも頷ける。

その部屋における唯一の白人であり、新入りでもあるビリー・ムーアに対して、新人いじめをその刺青すごい人たちがかますわけだが、もう、こんな状況耐えられるわけないってレベル。地獄の部活の部室みたいだ。

そして、ムショの初夜。「人の心が折れる音」が聞こえる。人間の尊厳を奪うとは、このこと。ここまで観て、気分悪くなって続きが観られない人もいるのではと思う。

いろいろな映画での刑務所描写を見てきたが、ここまでに絶望の弱肉強食の世界が展開されているのを観たのははじめてだ。

■ モンド映画的味わい

ヤー: crazy
バー: drug

という意味だという、タイの覚せい剤、ヤーバー。

そんなヤーバー中毒者が入り乱れるタイの刑務所は、まさに、ヤバイ!

吹き荒れる暴力。囚人同士のレイプ。そして腐敗した看守たち。

実際に服役していた人々を映して、タイのやばい刑務所をみせつける様は、モンド映画的な味わい。それだけでも、この作品の衝撃度は保証されている。

この映画では、多くの人にとって人生ではじめてみる類の”実在の”人たちが出ているし、きっとふつうに生きてたら絶対に出会うことはない類の”実在”の人たちが出ている。

そして、タイの刑務所、スペースに対する人の数がおかしい。 地獄の川の字就寝しなきゃいけないほど、オーバーキャパシティ。密着しながら寝て、起きたら誰か死んでるとか、どういうことよ。人権とは。

■話が通じないという恐怖

ビリー・ムーアにとっては、タイの刑務所では、基本的に、話が通じない。ビリーが英語で話しても、英語は実際わかるのに、わからないふりをして、タイ語でなにやら恐ろしいことを言う、ムショの人々。

言語の壁、そしてそもそも「やばい人」ということで、二重の意味で意思の疎通ができない相手。そのような相手に追い詰められる様は、まさにホラー映画。

ある場面での「エイズにしてやるぞ」は本当に厭な、最悪の場面。ピンチはチャンスとかそんな甘ったるい言葉が出る余地が一ミリもないほどのピンチが展開される。

“実在”の人だということも考えると、ある意味、そんじょそこらのホラーよりよっぽど怖い。

■人間らしさを取り戻す

しかし、人間らしさを取り戻す!べく、ビリームーアがすがったのは、ムエタイ。刑務所の中で、ムエタイマッチが行われており、選手として選ばれれば、地獄の大部屋から抜け出せる。

ムエタイのトレーニングを受けようと、ムショの中のジムを訪れるビリー。しかし、最初は、門前払いされる。ピラニア同士を戦わせるピラニアファイトの賭けなどで、なんとかタバコを工面し、それを手付金がわりに活路を拓いていく。

この、ビリーに門前払い食らわすムエタイコーチだが、最初は嫌な奴に見えるも、いざビリーのトレーニングがはじまってみると、ナイスな熱い人柄!

タバコくわえながら、味のある身振り、表情で、パンチング、キックの指導。この、トレーニングの場面は、王道ボクシング映画のように、純粋に熱くなる。

このムエタイコーチ役のソムラック・カムシン、96年のオリンピックでボクシングのフェザー級の金メダリストだとか。どおりでパンチの筋が他と違うわけだ!

■ムエタイ仲間

それまで、意思疎通のできないヤーバーな方々に戦々恐々していたビリーだったが、ムショの中でもムエタイをやる人たちとは、比較的人間らしいやりとりを繰り広げる。

ほんの束の間の、ムエタイ仲間との人間らしいやりとり。ヤーバー中毒だったが、それを絶った人。過去の行いを悔いている人。会話が成立するのって、なんて有り難いことなのだろう。

それまで、夜眠るのも怯えながらだったが、ムエタイ仲間との部屋では、高校生の修学旅行のように枕投げに興じていたり、ささやかな幸せに浸るビリーが微笑ましい。

■タトゥーの意味

この映画で、タトゥーは、ムショの方々が顔からすべて全身にはりめぐらす、恐怖の象徴として登場した。

しかし、ムエタイのトレーニングをムショではじめたビリーは、ムエタイファイターとしての、タトゥーを入れる。

戦士としてのタトゥー。

タトゥー、刺青というのは、ヤーバーな人の威嚇の意味合いに矮小化されるものではなく、タイの人にとって、より精神的に重要で、神聖な意味を持つものなのだ!

■命を賭けたムエタイマッチ

映画は、ビリームーアの、まさに命を賭けたムエタイマッチへ向かって、高まっていく。

殴られて血を失えば死ぬ。
戦わなくても死ぬ。
負けても死ぬ。

戦って、勝つことだけが、命をつなぐための唯一の手段。

こんなに、追い詰められた戦いがあったものか。 もう、ただただ、ビリーは暁に祈るしかない!

ビリームーアが自伝書いてるってことは、まぁビリーは死なないのだが、しかし最後まで、どちらに転んでもわからない緊張感。

実際、どちらにも転び得たのだろう。恐怖。背筋が凍る。

■で、どうなのこの映画

タイの刑務所のヤバさをみるモンド映画として見応え十分なのはもちろんのこと、ビリー・ムーアが己の拳で生きる道を切り開くドラマが熱い作品! どんなことがあっても、タイの刑務所にだけは入りたくないと強く思った。

2018年ももう終わる。2019年も、ヤーバーな映画をたくさん観るぞ!

あぁ、グッドライフを送りたい。

 

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映画、音楽、本のことを中心に、役に立つかどうか度外視して書きたいこと書こうと思っています。サブカルなイベントもよく行くので、そのレポートみたいなことも書くかもしれません。