あけましておめでとうございます!
年末年始は街も浮かれている。
輝き始めたショッピングモール 転がった恋には値札がある 退屈の海 生きるって意味 まとわりついてどうしようもない
って曽我部恵一band の「魔法のバスに乗って」の歌詞が浮かぶ
映画館の暗闇の中に逃げ込みたい!
レディーガガ演じるアリーがスターダムを駆け上がりレディーガガになっていく話、アリー スター誕生を観てきた。
◆スタッフ、基本的な情報
アリー/スター誕生。 原題はA star is born。監督は、主演も務めたブラッドリークーパー。脚本は、エリック・ロス、ブラッドリークーパー、ウィルフェッターズ。ロバート・カーソン、ウィリアム・A・ウェルマンの原案によるストーリー「スタア誕生」が1937年に最初に映画化され、その後、1954年、1976年とリメイクされ、今回が4度目となる。今作には1954年版の脚本としてモス・ハート、1976年版の脚本としてジョン・グレゴリー・デューン、フランク・ピアソン、ジョーン・ディディオンがクレジットされている。
主演はブラッドリー・クーパーに加え、レディー・ガガ、サム・エリオット、アンドリュー・ダイス・クレイらが名を連ねる。
◆簡単なあらすじ
アル中でヤク中のロックスター、ジャクソン・メイン(ブラッドリークーパー)は、大観衆を前にライブを終え、まっすぐ家には帰りたくない!と、ドラァッグクイーンたちが歌う場末のバーに立ち寄る。そこで歌うアリー(レディー・ガガ)の歌声に魅了され、恋に落ちる。
その後、ジャック(ジャクソン)はアリーを自身のライブに招き、アリーをステージに上げる。そこで歌った歌は、アリーとジャックが出会った日に、アリーが駐車場で聞かせ、ジャクソンが感銘を受けた歌、”shallow”だった。
鮮烈なデビューを果たし、スターダムを駆け上がるアリー。その一方で、ジャックのアルコールとドラッグの中毒は悪化していく….。
◆ブラッドリークーパーは信頼できる男
クリント・イーストウッド監督で進んでいたところ状況が変わり、主演に加えて監督も務めることになったブラッドリークーパー。初監督であり、ビッグバジェット映画でもあり、そのプレッシャーは相当にあっただろう。
しかし、映画を観て、開始5分くらいで思うのは、「ブラッドリークーパーは信頼できる男だ!」ということ。
冒頭、インディオで開催されていた実際のフェスをジャックして撮影されたという、”Black Eyes”というタイトルの70sテイストなブルースロックの演奏シーンがバーン!と映し出される。 そのシーンで、ジャックがアルコール中毒であり(演奏前にハードリカーを飲んでいる)、孤独であり(歌の歌詞)、そして多くの人を熱狂させるロックスターである(曲、パフォーマンスがかっこいい、大会場でのステージ)ことが一気にわかるようになっているのだ!ここで、一気に映画に引き込まれる!
破滅型のブルースロックスターを、高水準で体現するブラッドリークーパー。ライブシーンでの歌声は、そのまんまブラッドリークーパーのものだとか。また、本人も実際にドラッグとアルコール中毒で苦しんだ経験があるためか、アルコール中毒ルックにも余念がない。酒浸りの顔にするために、撮影中は目の周りにメンソールを塗っていたという。
そして、浮浪者のように伸ばした髪と髭の風貌は、クレイジーハート(2010)やビッグリボウスキ(1998)でのジェフブリッジスの風貌を強く連想させた。実際のフェスをジャックして撮影するというのは、クレイジーハートの中のワンシーンでも行われていたことでもあるというから、クレイジーハート、このタイミングで改めて観たい作品。
◆コンプレックスを解き放て
アリー(レディーガガ)は、歌はうまいのだけれども、見た目がアレだから売れない、という呪いに苛まれ続けていた。大きな鼻、それがコンプレックスであり、レコード会社の人たちにも、「歌はうまいのだけれど、鼻が」というようなことを言われ続けていた。
しかし、ジャックは、「いや、見た目、いまのままで最高じゃん」とアリーのそのままを全面的に肯定する。ジャックがアリーの鼻をそっと撫でるように触るところのシーンの色気!
コンプレックスに触れる、というのはとてもスリリングで、エロい行為。
ジャックの猛烈プッシュもあり、アリーは己のコンプレックスを解き放ち、羽ばたいていく。
コンプレックスを解き放ち、羽ばたいていくというのは、ダンボ(1941)のクライマックスでダンボが大きな耳をまさに羽ばたかせてブレイクスルーしていたのを連想させる。コンプレックスとは魅力の源泉。
◆スタア誕生!の瞬間
本作の一番の盛り上がりどころのひとつは、なんといっても、アリーがジャックと一緒に大観衆の前で”shallow”というアリーとジャックにとって特別な曲を披露するところだろう。その瞬間、名もなき場末の歌うたいから、スターへの入り口に立つアリー。
レディーガガの歌がこれまた上手くて、ソウルフルで、グッとくる。派手な衣装やギミックであまり前面に出ていなかったレディガガの、そのまんまの歌の上手さ、歌声の良さがこれでもかと伝わってくる。
ソウル、霊性を感じさせる声。本能的なところへ訴えかける力強い声。ジャックがその声を聞いて、酔いから醒め、アリーに心酔してしまったのも頷ける、説得力がある歌声だ。
◆あまりにもレディーガガになっていくアリー
スターダムを駆け上がっていく中で、アリーは、あまりにも「レディーガガ」と化していく。
ダンスをはじめたあたりから、レディーガガ度が跳ね上がる。実際のレディーガガの振り付けをしているリッキー・ジャクソンがこの映画でも振り付けを担当しているという。
レディーガガはアリーであり、アリーはレディーガガ。この作品は、レディーガガの人生とは関係のないフィクションでありながら、レディーガガがスターダムを駆け上がっていく様子を追体験させる自伝映画的な印象を与える作品でもある。
◆アリーのお父さん
アリーの父親役を演じたのは、アンドリュー・ダイス・クレイ。80、90年代に活躍したスタンダップコメディアンである彼。画像検索をしてもらえば、そのファンキーで一筋縄ではないかない風貌を垣間見ることができる。
なかなかに含蓄のある、味わい深い演技をしている。
その父親と仲間たちが朝っぱらから、時差を利用して日本の競馬に興じているシーンがある。地方競馬ならぬ、異国競馬。とても楽しそうだ。一度はやってみたい、異国競馬。
味のある、で言えば、ジャックの兄役のサム・エリオットも、相変わらず色気ある低音ボイスで渋くてカッコ良かった。
◆I’ll never love again
ラストで、非常に重要な意味合いを持ち、そして感動的な歌であるI’ll never love again。超訳するならば、「もう恋なんてしない」。
レクイエムとして、ラブソングとして、純度高く響く歌。レディーガガの歌声のソウルフルネスが理屈を超えて心に刺さる!
劇中歌のカタルシス具合としては、リメンバミーに匹敵するものがあった。
◆で、どうなのこの映画
実際のライブをジャックして撮影された演奏シーンの迫力、レディガガ、ブラッドリークーパーの両主演の体現するロックスターとしての説得力、そして初監督でありながらタイトで映画的センスの感じられるブラッドリークーパーの手腕。それらが合わさり、傑作となってる。
レディガガの歌って、こんなにシンプルにソウルフルで心に響くものだったんだな!ということに気づかされる、嬉しい驚きのある映画でもある。
レディガガにあまり興味のない人にほど、観てほしい映画だ。レディガガのことが好きになる。実際、私がそうでした。
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