つい先日、星野みちるラジオの最終回に、リスナーとして電話出演する機会があった。
星野みちると話すのはとても緊張し、それでいて、なんだか距離が近くなったような錯覚を覚えた。
声と声。声を頼りに相手の表情を想像するそのコミュニケーションは、親密でありえるが、こちらと向こう側がどういう状態か全くわからないという中で行われるものでもある。
そこには誤解、勘違いが生まれ得る。
電話を介して、黒人警察官とKKKがコミュニケーションを重ね覆面捜査が行われた話で、しかもそれは実話ベースであるという、そんな映画があるとか。
しかも、監督はあのスパイクリー。
これは観なければ! と、渋谷シネクイントにて観てきた。
◆ スタッフ、基本的な情報
監督はDo the right thing(1987)、マルコムX(1992)などで、映画史におけるブラックムービーの礎を築いてきたスパイク・リー。2014年にロンストールワースが自身の体験を基に書いた本をベースに、スパイク・リー、ケビン・ウィルモット、ディビッド・ラビノウィッツらによって脚本が手がけられている。デンゼルワシントンの息子であるジョン・ デイビッド・ワシントン、アダム・ドライバー、トファー・グレイス、コーリー・ホーキンズ、ローラ・ハリアー、ヤスペル・ペーコネン、アシュリー・アトキンソン、ポール・ウォルター・ハウザーらが出演。
ゲットアウト(2016)のジョーダン・ピールがもともと映画化の権利をもっていたが、自身は製作に回り、スパイクリーにこそ撮られるべきだ!と監督を託し、プロジェクトを進めて行ったという。
この間のアカデミー賞では、6部門ノミネートし、脚色賞を受賞した。
◆あらすじ
マイノリティ歓迎というふれこみのコロラドスプリングスの警察署。そこにやってきた、ロン・ストールワース。見た目はアフロヘアーの70s典型的な黒人青年。警官になる面接を受けるが、言葉遣いはしっかりしてて、品格もある。採用。記録室という所に配属されるが、つまんないし、同僚の白人警官のいやがらせもあり、配属を変えて、覆面調査をやらせてくれ、とチーフへお願いする。最初は断られるも、夜勤明け、チーフから電話がかかってくる。
念願の覆面捜査の内容は、黒人のクワメ・トゥーレというカリスマがスピーチする集会への潜入だ。隠しマイクをつけ、会場へ潜入するロン。覆面操作チームとしては、実はユダヤ系の、アダムドライバー演じるフリップ・ジマーマンら。潜入会場で出会う、黒人解放運動の団体の会長を務める、ローラハリアー演じるパトリス。その女性に、捜査を超えた感情も抱くロン。その覆面捜査を経て、ロンは正式に情報部に配属となる。
ロンが何気なく新聞を読んでいると、ある広告を目にする。KKKの問い合わせ窓口が記載されている。ロンは、その番号へ電話し、俺は「ニガーもユダヤ人もみんな嫌いなんだ、なかでもニガーは大嫌いだ」と電話口で差別的な白人を演じ、見事に相手を騙す!そこを糸口として、電話はロン自身、KKKへの実際の潜入はフリップがロンの名前を名乗って(本名をロンが電話で言っちゃったから)行うことに。黒人がKKKの会員となる「ブラッククランズマン」の誕生。前代未聞の覆面操作の行方はいかに…。
◆こんな覆面捜査もの、おもしろくないわけがない
まず、警官の覆面捜査ジャンルものとして、こんなのみたことない! 面白い!という、痛快なブラックジョーク満載の、スパイクリー節が炸裂している最高のエンタメ作品。タイトルロゴもかっこいい。
黒人の警官が、黒人含む世の中のマイノリティをすべて差別する勢いのKKKの内部に覆面捜査というんだから、それはドキドキワクワク、楽しい。そして、映し出される、KKKのやつらの底なしの愚かさ、バカさ。
しかし、笑えて楽しい映画なんだが、笑い飛ばせない怖さがある。それはやはり、これは実際にあったことに基づいており、KKKはいまもあり、現在のアメリカで起きている事と密接に関係しており、あまりにも馬鹿げた発言や行動も、それと似たようなことをする輩が、実際に今でもいるからだ。
圧倒的に面白いエンタメでありながら、観た者それぞれが打ちひしがれざるえなくなってしまうパワーに満ちている。
◆バディ・ムービー。
演者はおしなべて最高。ジョン・ディビッド・ワシントンとアダム・ドライバーの2人のバディ感はいつまでも観ていたくなるナイスなグルーヴ感。やっぱりアダムドライバーはいいなぁ、画面映りいいなぁ、さすがだな、という感じだし、デンゼルワシントンの息子、ジョンデビッドワシントン、ちゃんと映画で見たのははじめてだが、育ちの良さを感じさせる品があってストリートなノリもあっての存在感を発揮していた。
2人の所属するコロラドスプリング警察署の情報部チームの面々の部室ノリ、いい奴らっぷりもとてもよかった。KKKへの覆面潜入というシリアスで緊迫感のあるミッションを、KKKのやつら鼻を明かしてやる!といった気概で、ぐいぐい観るものひきつけながら展開していく。
警察署の中にいる差別的な問題行動をとる白人警官を、みんなで画策してとっちめてやるくだりなんか、よかった。差別、偏見、ひどい人たちの行動、発言がありながらも、このコロラドスプリングの情報部チームの暖かさ、いいやつら感が救い。
◆狂気のフェリックス
KKKのメンバーの中でもとりわけ狂気を体現していた、フィンランド出身のヤスペル・ペーコネン演じるフェリックス。画面に出てくるたび、なにかしでかすんじゃないか、ハラハラする。
彼が「ホロコーストは、嘘だと思っている」、って言っていたところは、何言ってんだバカだなぁ、と笑い飛ばせず。なぜなら、日本で、実際に最近、同じことをマジで言っている著名人がいたから。
こういう狂った悪い役を説得力もって演じるのはすごいことだし、映画のインパクトにとても貢献している。
◆狂気のアイヴァンホー
また、KKKメンバーの中でもうひとりのエクストリームに狂った存在であるアイヴァンホーを演じていた、ポール・ウォルター・ハウザー。彼は昨年公開のアイ, トーニャでも、印象的な狂人を演じていた。今作は当て振りの役かと思うくらい、ハマり役。
ハングオーバーシリーズの、あのザック・ガリフィアナキスにも通じる、人間核弾頭じみた破壊力があった。
◆デビットデューク
アメリカの歴史の上でも最悪の人物とも言われるKKKのリーダー、デビッドデューク。トファーグレイスが、礼儀正しさを装っているが実質的には最悪のレイシストを、よく体現していた。彼の使っていたフレーズ、アメリカファースト!どっかで聴いたことがあるなぁ、と思い、ゾッとした。
なんとかを取り戻すとか、なんとかファーストとか、そういうのを声高に叫ぶ人にはロクな人がいない。
◾いやな狙撃場面
KKKに潜入しているフリップとKKKのメンバーたちが射撃に興じる場面がある。
KKKたちが射撃に興じていて、その後、なにを打っていたのかカメラがぐーっと向きを変えた時にわかる。そこに写っていたのは…
これも、実際に行われていたことなのだろうか。なんて胸糞悪い。
本当にいやな狙撃の遊びを映し出した場面だ。
◆最低最悪の応援上映
ハリー・ベラフォンテが、黒人たちの集会で語る1916年にテキサス州ウェイコで実際に起こった悲惨なリンチ事件。そこでおこなわれた、耳を疑うような、悲惨で、非人道的な所業に怒りと悲しみがこみ上げる。
その一方で、KKKのメンバーたちが「國民の創生」を、熱狂しながら観ているシーンが差し込まれる。「國民の創生」とは1915年に作られ、大ヒットになった映画。原題はThe Birth of a Nation。南北戦争での南部軍の残党がKKKになり黒人たちをリンチしていく様を描いた映画。
「国民の創生」が上映された翌年に起きた惨劇が語られる様子とカットバックで映し出される、KKKの連中の世にもおぞましい「国民の創生」の応援上映。
その対照的な2つの場面が交互に映し出されていく展開の鮮烈さ、衝撃は、ものすごいものがあった。
◆70年代という時代
70年代が舞台の映画ということで、ロンとパトリスのデート場面では2人はブラックスプロイテーション映画のスターの話してる。ブラックスプロイテーションは70年代に作られた黒人が主人公の商業主義的ジャンル映画。 コフィーって映画のパムグレアの話とかしてる。
音楽も70sを感じさせる。ディスコクラブのようなところでかかる、The Cornellius BrothersのToo Late to Turn Back nowなんて、いい感じ。
Too late to turn back now
70年代の意匠がちりばめられた、70年代が舞台の話なのだが、そこで描かれ取り上げられる問題が現在と地続きであり、いかに70年代と現在とで共通する社会的問題があるかということを突きつけられる。
◆実際に起きたこと
ラストに、フィクションでありながら、その次元を超えて、実際に起きたことのその映像を映し出す。
2017年、8/12アメリカのバージニア州で起きた惨劇。本編で起きたようなことは、リアルに今でも起こってるんだぜ、という提示に戦慄。
◆で、どうなのかこの映画
笑えて、最後には背筋が凍る。製作のジョーダンピールのまさに意図した通り、なぜスパイクリーが今作を撮ったかという必然が随所から感じられる作品。フィクションであり、ドキュメンタリー。ドキュメンタリーとしての力を持ったフィクション。怒りとメッセージに満ちていながら、映画としてのテンポの良さ、スタイリッシュさ、面白さも兼ね備えているのが流石。スパイク・リーの鉄拳制裁!
オスカー受賞でのスパイクリーの痛快スピーチ
魂の救済は映画を観る行為の中に!
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