日本でこれから公開する映画の海外レビュー 勝手に訳してみた : ハーツ・ビート・ラウド 旅立ちのうた(2019年6月7日 公開予定)

ライター: Sheila O’Malley
原文: https://www.rogerebert.com/reviews/hearts-beat-loud-2018

◆「ハーツ・ビート・ラウド」の最大の魅力は、その控えめさだ。

ブレット・ヘイリー監督、マーク・バッシュが共同脚本を手がけた作品「ハーツ・ビート・ラウド」の最大の魅力は、その控えめさだ。感情の高まり、社会への意見、秀逸なプロットなどを義務付けられていないと思える映画は新鮮だ。

確かな実力を持ったキャスト陣によって魂を吹き込まれたシンプルな登場人物たちと共に、ささやかなシーンの数々がカジュアルに描かれている。演者や監督が、興味を持続させようとメッセージやカタルシスを押し付けてこないことは、観客のひとりとして安心して観ることができる部分だ。しかし、「ハーツ・ビート・ラウド」は、キャラクターたちが抱える問題に関して、ストーリーの中でもっと切実に描くことができたのではないかとも思わせる。

ニック・オファーマン演じるフランク・フィッシャーは男やもめで、マンハッタン近郊のレッド・フック(Red Hook)という地域でレコード屋を経営している。マンハッタンの喧騒から遠く離れた地域であるレッド・フックを訪れれば、今はなき工業地帯の雰囲気の倉庫、波止場、黄昏を味わうことができる。しかし、そこには再開発の風が吹いている。再開発というのは今作の主題ではないけれど、主人公の懸念事項として通底して流れているものだ。フランクはレッド・フックでレコード屋を経営して17年になる。トニ・コレット演じる大家のレズリーは、その店とフランクが好きなので、賃料の値上げをずっと据え置いてきた。しかし、フランクはついにレコード屋店舗を手放さなければいけなくなる。フランクは店のウインドウにこんなサインを掲げる、「エブリシング・マスト・ゴー”Everything Must Go”」(それは今作のタイトルとしてよりふさわしく、感情を喚起させるものだったようにも思える)。

キーズリー・クレモンス演じるフランクの娘のサムは、西海岸の大学へ通う準備として夏休みの間、医学部進学のためのクラスを受講している。彼女の人生において、いろんな意味で、ひとつの時代の終わりの時期。

フランクと彼の亡き妻がかつて一緒にバンドを組んでいたこともあり、ある日フランクはサムと即興のジャムセッションをはじめ、長い1日の終わりに曲を書き上げる。それは、家族が絆を深めるためのひとつの方法であった。しかし、すべての差し迫った状況の変化もあり、フランクは娘とバンドを結成する決意をする。娘のサムはとくにそれに乗り気ではなかったが、フランクはあまりに多くを手離した。娘を、手離したくないのだ。

◆物語は、父と娘がインディロックのシーンを駆け上がる、というような、予測できる方向へは向かわない。より静かで、より現実的だ。

「ハーツビートラウド」はぬるい温度で進むが、それは今作にとって功を奏している。フランクはレッド・フックにあるバーの、クスリをきめてラリってるオーナー(テッド・ダンソン)とつるんでいる。時々、レズリーと一緒にカラオケにも行く。

サムはアートギャラリーで働いている女の子(アメリカンハニーのSasha Lane)と会う。二人のロマンスは、時間が限られているゆえに、とても切実だ。フランクが、サムと一緒にレコーディングした曲をSpotifyにアップロードすると、それはささやかなヒットとなる。

フランクはサムに大学へ行くのを遅らせてはどうかと提案する。そうすれば、一緒にライブすることができる、と。物語は、父と娘がインディロックのシーンを駆け上がる、というような、予測できる方向へは向かわない。より静かで、より現実的だ。

クレモンスの演技は当然のように素晴らしいが、オファーマンが、うれしい驚きだ。これまで彼は大味なキャラクターを演じ、それはそれでよかったのだが、今作では、彼はより内向的で、喪失と悲しみを表情に刻印させて演じている。彼が娘のサムと話している場面で、彼の感情、娘への愛、孤独への恐れ、彼が表向きは表現できない全てのもの、その高まりを、観客は感じ取ることができる。再婚をしなかったフランクにとって、娘が彼にとっての全てだった。音楽について話す時だけ、彼は息を吹き返す。

フランクがサムの書いた歌詞を読んでいて、サムが誰かと恋に落ちていることに気づくシーンは美しい。「ガールフレンドがいるのかい?」とフランクはサムにきく。興奮気味に、関心深げに(その人の性的志向が、まったくイシューとして扱われないのは、とても新鮮だ)。
痛みと恐怖が、フランクに父と娘でバンドを組むアイデアへのこだわりを抱かせている。オファーマンは、キャラクターを自己憐憫やうぬぼれに溺れさせることなく、それを見事に表現している。

◆クレモンスの力強い声、二人の間のダイナミクス、彼らがお互いに抱く愛と感謝、彼らが共有する楽しさを伝えてフルで披露されるパフォーマンスで、観客はすっかりやられてしまうだろう。

キーガン・デウィット(Keegan DeWitt)によって作曲された2、3曲のオリジナル曲を含め、今作ではたくさんの音楽が使われている。オファーマンとクレモンスによって表現されるこれらの曲は、今作のテクスチャーの多くの部分を担っている。クレモンスの力強い声、二人の間のダイナミクス、彼らがお互いに抱く愛と感謝、彼らが共有する楽しさを伝えてフルで披露されるパフォーマンスで、観客はすっかりやられてしまうだろう。

今作のいくつかの部分には下書きのようなラフさが残っている。サムはたったひとつの医学部進学コースしか受けず、そのレクチャーは心臓についてで、そこでは恋に落ちることでいかに心拍数があがるかということが語られ、「オーケー、では心室について話そう」と展開される。医学部進学コースはかなり厳しく忙しいはずなのに、サムは父親とジャムセッションしガールフレンドと交流しといった具合で、無限の時間があるかのようだ。

テッド・ダンソンが出てくるシーンのいくつかはまるで無駄であるようにも思える。彼は、フランクの話し相手としてだけ存在しているキャラクターかのようだ。レズリーのキャラクターももっと掘り下げられただろう。トニコレットが、キャラクターに一定の深みを与えてはいるが。

そして、バンド活動のためにサムが大学へ行くのを遅らせるというフランクの提案は、それが実際に間違った考えであるということを掘り下げられていない。彼は文字通り彼女を「ひきとめて」いる!今作はフランクに対してあまりにイージーゴーイングで、興味深く追求の可能性のある感情を、未探求のままにしている。この映画のハートビートは、もっと強く鳴らすことができたであろう。

https://www.rogerebert.com/reviews/hearts-beat-loud-2018

★今作の日本での扱い
関東地方では、2019年6月7日より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、MOVIX三郷で公開される。

シネマカリテは毎週水曜が映画料金1000円。
ヒューマントラストシネマ渋谷はTCGグループで、TCGカードの割引がグッとくる。

アナログレコードを模した非売品ステッカー付きの劇場鑑賞券も上記の映画館で販売されている。ステッカー貼って、小躍りして映画館へGO。

「大切なものを手放して、前に進もう」という宣伝コピーでプロモーション。レビューサイトのRotten Tomato では92%を叩き出した、とか。
https://hblmovie.jp

マンハッタン近郊のレイドバックした雰囲気のレッドフックの気持ちいいバイブスを感じることができそうな今作。初夏の6月にキメこみたい映画だ。

 

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