日本でこれから公開される映画の海外レビュー :ピアッシング 2019/6/28 公開 村上龍原作

原文

https://www.google.co.jp/amp/s/www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/reviews/piercing-review-mia-wasikowska-nicolas-pesce-charistopher-abbott-horror-comedy-film-a8779016.html%3famp

ライター: Geoffrey Macnab
@TheIndyFilm

<嫌悪感とおもしろさの両方がこみ上げるスタイリッシュな*BDSMホラーコメディ>

(*BDSM(ビーディーエスエム): Bondage (ボンデージ)、Discipline(規律、抑制、忍耐)、SM(サディズムとマゾヒズム)の頭文字から構成され、嗜虐的な性的嗜好をひとまとめにして表現する言葉。縛ったり、縛られたり、首輪をつけたり、つけられたり、はソフトなところで、そのほかディープなあれこれが、BDSM で検索するといろいろ出てくる。)

ピアッシング(原題:Piercing)
監督 ニコラス・ペッシェ
クリストファー・アボット、オリビア・ボンド、ライア・コスタ、マリア・ディジア、マーリン・アイルランド、ダコタ・ラスティック、ミア・ワシコウスカ出演。
上映時間 81分。

http://piercing-movie.com

◆今作は本質的に両刀使いであり、そのことがミア・ワシコウスカ、クリストファー・アボットらの演者から、とてもクォーキーで魅力的なパフォーマンスを引き出している

ニコラスペッシェ監督の最新作は、嫌悪感とおかしさが交互にこみあげてくる、洒落ていてスタイリッシュなホラー・コメディだ。村上龍のカルト小説を脚本化し、ペッシェ監督はユーモアとグラン・ギニョール的なショック戦略の間をとったちょうどいいバランスで作品を仕上げている。今作は本質的に両刀使いであり、そのことがミア・ワシコウスカ、クリストファー・アボットらの演者から、とてもクォーキーで魅力的なパフォーマンスを引き出している。

◆アボット演じるリードは、テッド・バンディ(アメリカのシリアルキラー)を彷彿とさせる

アボット演じるリードは、テッド・バンディ(アメリカのシリアルキラー)を彷彿とさせるハンサムで若いビジネスマンだ。彼は精神病的な傾向があるが、しかし、その話しぶりはとても丁寧だ。リードは今作の早い段階で、生まれたてのこどもをアイスピックで攻撃してしまおうか逡巡する様子を見せる。そして彼が出張に行く際には、己の血への渇きをなんとか抑えるために、英語を話す娼婦を殺害しようと企てる。ミアワシコウスカ演じるジャッキーは、リードが雇う女性で、リード自身よりもさらにこじらせている。彼らはすぐに意気投合する。

◆いわゆる全英映像等級審査機構英国が述べるところの「強烈で血なまぐさい暴力」があふれている

ペッシェが描き出す映画の中のキャラクターたちは、とても闇深いところにいる。そこでは、いわゆる全英映像等級審査機構英国が述べるところの「強烈で血なまぐさい暴力」があふれている。リードとジャッキーはBDSMと自傷行為への不健康なまでの強迫観念を抱えている。しかし、殺しに興じたりお互いに拷問しあったりする行為の合間には、一緒にスープを飲んだりするひとときを欠かさない。

◆ベッドの上いっぱいに猟奇的な拷問器具を並べている

心配性なリードが、犯罪の構想を練りながら、服は着替えたほうがいいかな、飛び散った血をどうしようかな、などと念入りに思案している様子はなんだかコミカルだ。リードは、ホテルの部屋で大きな騒音を立てることにも、すまない気持ちでいっぱいなのだ。SMの世界では新入りである彼は、「あなたを縛っていい?」というセリフを、相手がやってくるまでの間、何度も何度も練習する。彼はベッドの上いっぱいに猟奇的な拷問器具を並べている。彼が殺人をシュミレーションして動きを練習している場面では、ペッシュはまるで実際に彼が誰かに危害を加えているかのようなサウンドエフェクト放り込む。

◆ワシコウスカに不思議ちゃんキャラクターを演じさせれば並ぶものはいない

ワシコウスカに不思議ちゃんキャラクターを演じさせれば並ぶものはいない。今作でもそうだ。今作で演じる彼女のキャラクターは、ディビッドクローネンバーグが手がけた退廃的ハリウッドへの風刺作品「Map to the stars」に出てくる傷ついた若い女性の、よりユーモラスでおどおどしたバージョンだ。

◆まるでシャイな若いカップル

リードとジャッキー、双方が入れ替わり立ち替わりで縛られ、暴力に曝される。本当に凄惨で気分が悪くなるシーンもいくつかある。しかし、決まっていつもコミカルな寸劇がその後に用意されている。彼らは傷つけ合うにしても助け合うにしても、モンスターという様子ではなく、まるでシャイな若いカップルのように振る舞う、音楽は一貫してアイロニックかつ飄々としている。タイトルクレジットでのアップビートなテーマソングは、1970年代のコップムービーのそれを彷彿とさせる。

◆今作が真にオリジナリティを発揮している部分

ピアッシングは、80分ちょっとのタイトな上映時間でありながら、その尺を存分に使い切っている。リードの幼少期の悪夢的なフラッシュバックや爬虫類が溶岩を這い上っている奇妙で超現実的なショットなどが放り込まれ、観客を飽きさせない。しかし、今作が真にオリジナリティを発揮しているのは、極めて商業主義的で軽めなスクリューボールコメディで用いられているような要素が用いられている部分である。その結果として今作は、そのストーリーラインから想像するよりもはるかに親しみやすく、娯楽的な映画となっている。

★日本での扱い

2019/6/28より、都内では新宿シネマカリテにて上映。

嗜虐プレイもの好きとしては、抑えておきたい一作。今年も熱帯夜が予想される夏のとば口に、猟奇的かつユーモラス、不快感とおかしみの交互浴に浸かるべく、観たい作品。

 

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映画、音楽、本のことを中心に、役に立つかどうか度外視して書きたいこと書こうと思っています。サブカルなイベントもよく行くので、そのレポートみたいなことも書くかもしれません。