やくざなシネマ日記 やくざ坊主(1967)

政治家のとんでもない不正には、言ったってどうしようもない、と口を閉ざしつつ、芸能人のスキャンダルや、市井の人々のちょっとした逸脱行為に対しては、鬼の首でも取ったように正義の立場からあれこれ言う様子は、昨今、SNSの浸透で、より目につきやすい。

法を犯せば等しく悪ってわけでもない。悪いやつでも、結果的に英雄、それは痛快で、やくざな映画の王道。

そんなわけで、勝新太郎主演、やくざ坊主 (1967) 、を観て、考えた。

◆ スタッフ、基本的な情報

やくざ坊主(1967) 大映

監督: 安田 公義
脚本: 高岩 肇
出演: 勝新太郎、成田三樹夫、小川真由美、小松方正、多々良純、渡辺文雄

◆ どんな話か

ヤクザと坊主のジャンルミックス。勝新太郎演じるやくざ坊主が痛快に暴れまわる話。念仏唱える坊主でありながら、盗みやギャンブルに興じて堕落した生活をし、喧嘩もめっぽう強い、やくざ坊主。本物のやくざとも対立。やくざの雇った凄腕の刺客、成田三樹夫とも対決することになる。結果的に、その地域の治安を維持することに一役買って出ることに。ならずものが、ならずものを退治して、また旅に出る。

◆ やくざ者に坊主は務まるのか。無法者が唱える念仏 、悪人正機の思想の体現

冒頭から、見知らぬ寺にかってにずかずか入り込み、入れ墨見せつけ、ケレン味たっぷりに、ドーン!と登場するやくざ坊主。 腹が減ったからと、民家のシャモを盗んでつかまえて、そのまま首をひねって調理し焼き鳥にしてうまそうに食べる。

そして、盗んだ鳥を食べて腹がいっぱいになったかと思いきや、寺を連れ込み部屋にして金儲けだ、と思いつく。連れ込み部屋の隣のところをのぞき部屋、にすれば、さらに儲けられるぞ、と極悪な商才を発揮。

やくざが寺にドカドカ入ってきて、葬式をしてくれ、と頼まれると、坊主の本職、ネンブツ唱える。ネンブツ唱えている最中、後ろでやくざ同士乱闘になるも気にしない。乱闘おわれば、しっかりお布施もらう、割り切りスタイル。

そんな調子のやくざ坊主。

己の欲望に従い、法的にアウトなこと、倫理的にどうなんだ、ということをしながらも、粛々と坊主としての業務を遂行し、ネンブツを唱える様子からは、自分が悪人であると自覚している者が救済されるという、浄土真宗の悪人正機の思想がうかがえる。

身近にこんなやくざ坊主がいたら大層迷惑ではあると思うが、ネンブツ唱える坊主でありながら欲望のままに盗み食いや連れ込み部屋での金儲けにいそしむ様子は、痛快だ。

聖職者、とされる職業に従事していながら無法者、というスタイルに、普遍的な魅力を感じさせるなにかがある。本当に大事なものはなにか、ということを、無法行為であぶりだす。

◆ ヤクザ坊主の人助けスタイルにみる、善行に素直になれない、照れ隠しの傾向、そして、性的に闊達であることの肯定

「おとっつぁんの病気治したくて、金借りて、その利子で、首が回らなくなった」と困窮する小娘。やくざ坊主は、事情を知ると、金貸しのところに行き、金貸しの証文を焼き払ってしまう。

粋じゃない悪業には容赦しない、やくざ坊主の、善行。

しかし、ただの善行で終わらないのが、やくざ坊主。

礼はしてもらう、と、小娘を暗い部屋に連れて行き、お勤めだ、とアレをいたす。

人助けめいたことはするが、善人で終わらない。むしろ、悪ぶることを男らしさとし、照れ隠しのように荒ぶっているかのようでさえある。

また、やくざ坊主は、女性を性的に満足させることに男としての価値をおいてる感もある。映画の中では、やくざ坊主の手ほどきをうけた小娘は、まんざらでもないような様子にも描かれる。 似たような、世直し棒をぶん回すかのごときシーンは、同じく勝新太郎主演の、御用牙、でも露骨に描かれていた。

やくざ坊主の善行に伴う、照れ隠しと床上手。 それは、下町的、そして、勝新太郎的、ある種の品位あるマチズモであり、興味深い。

◆ 成田三樹夫演じる凄腕の剣豪。敵対関係を超えた、特別な感情。擬似的な恋愛。

やくざ坊主は腕っぷしが強く、立ちはだかる敵はほとんど軽々とやっつけてしまう。そんな中で、一筋縄ではいかない強敵として現れるのが、成田三樹夫演じる凄腕の雇われ剣客。

凄腕の者同士、やくざ坊主と成田三樹夫の間には、敵対関係を超えた感情のやりとりが見て取れる。

「お前だけはつまらぬやつにやらしたくない 」とはっきりと述べる、成田三樹夫。

そこには、敵対関係を超えた、特別な関係、擬似的な恋愛関係とも言える、ロマンティックなものがある。

お互いをさらけ出し、ぶつけあうこと。その攻防に、快感すら感じること。死と紙一重の凄腕同士の戦いは、性的なものを想起させる。

◆ まとめ

観れば、やくざ坊主が体現する生き様に、明日を生き抜く活力とヒントをもらえる、この映画。やくざな映画でハードな人生をやり抜こう。

 

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映画、音楽、本のことを中心に、役に立つかどうか度外視して書きたいこと書こうと思っています。サブカルなイベントもよく行くので、そのレポートみたいなことも書くかもしれません。