葛藤、そして葛藤

みなさんの周知の事実として、僕ってつねに葛藤中じゃないですか。

つねに詰め将棋中みたいな顔しながら歩いてますからね。

わかりやすい葛藤としては、どうしても食べたいものがあるけど、お金がなくなるみたいな、例のあれです。

 

そのたびに頭の中に天使と悪魔が登場し、

天使『ちゃんと節約して貯金しよ、無駄遣いは癖になるよ』

それに対し悪魔が登場し、

悪魔『たべたいときにたべるのが一番おいしいよ』

 

こういう自分自身の中に起こる、天使と悪魔の声に幼少期から耳を傾けた結果、
葛藤している人の顔を見ると、その人の中にいる天使と悪魔の声が聞こえるようになったんですよ。
てか、他人の天使と悪魔と話せるような感覚までありますからね。

そして、たいてい天使も悪魔も両方に肯定的な言い分があるんですよ。

だいたい、悪魔と天使と自分の三者の話し合いになるわけです。

ただそんな、常識をいとも簡単に覆される日がきたんですよ。

 

ある日、商店街を眺められるスパゲッティ屋の2階で一人でランチしてたんです。
まぁ下々は働いているなーなんて気分で眺めながら、スパゲッティをすすっていたんですよ。

そしたら、携帯ショップから出てきたご婦人が財布を落としたんです。
人通りも少なかったんで、僕も急いで一階に駆け下り声をかけようと思い、
立ち上がろうとした、その刹那。

さささっとじじいが見た目では想像のつかないスピードで、
財布をひろったんですよ。

一瞬いだてんと見間違えたかと思いましたからね。あの仏教において天部に属する神のスピードでした。
財布をおとしたご婦人の影から、出てきたような錯覚すら覚えました。

どんなじじいだよって顔見たら、意図せず例の僕の能力が発揮したわけですよ。
じじいのなかにいる悪魔と天使が、僕には透けて見えてきました。
幼少期から培ったシックスセンスが発揮したわけです。

 

じじいのなかの悪魔『おい!じじい、財布返さないで、もらっちゃえよ、財布ねこばばしちゃえよ』

じじい『そうだよな、ちゃんと生きてきたご褒美だよな』

じじいのなかの天使『こらこらこらこら』

僕『よかった、天使でてきたぁ』

じじいのなかの天使『違うよ、声の高い悪魔だよぉ』

僕『!!!!!!悪魔がもう一匹???』

じじいのなかの天使『競馬で手堅く増やそうよ』

じじいのなかの悪魔『大穴だろうよ、人の金だし』

じじいのなかの天使『負けてらんねぇ、もう一つ財布パクれ』

僕『悪魔が悪魔の座かけて争いだした』

じじい『では競馬で決定』

傾いた人間というのは行動も機敏で、
じじいははつらつと場外馬券場めざし歩き始めた。

 

その後ろ姿をスパゲティ屋の二階から見ていた僕は、
すぐさま警察に電話をかけて、そのできごとについてつたえた。

すると、警察が開口一番僕にこう言った。

 

『右手で拾いましたか? 左手で拾いましたか?』

 

右か左か。

 

いやわからない、さすがに。
むしろその情報いるの?
左で取ってたらまさか罪の重さかわるとか?
覚えてないものは仕方ないので、
わかりませんと答えると、

『いえ、大丈夫です』

そのあとの質問はなんだかないがしろで、
右か左か答えられなかったことが最後まで響き、
最後まで信憑性のない目撃者と扱われてしまった。

じじいの葛藤も初めてみたものだったが、
ここにきて、自分の中に生まれた葛藤も初めてのものだった。

右か左か。

いまでも、あの質問の意味を考えると詰め将棋中みたいな顔になってしまう。

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