2022年封切の映画で観たものの中からベスト10本。
例年よりも映画館に行く頻度は減った一年だった。観た映画はアフター6ジャンクションのムービーウォッチメンで取り上げられた作品を最低限カバーしていった感じ。
それでも振り返れば、心に残る多くの作品があった。
以下に、今の時点でベスト10本選んだ。
10 ザロストシティ/The Lost City
サンドラ・ブロックとチャニングテイタムが主演の、アクションアドベンチャー映画。監督はアーロン・ニーとアダム・ニー。
人も、本も、映画も、ジャンルで括って表面的なものだと侮ってはいけない、ということを伝えてくれる映画。それでいて、ポスタービジュアルとあらすじ設定から期待できるユーモアとけれんみあふれるアクションアドベンチャーとして俗っぽくやり切っているのも品が良い。
役の上でも、実際にも、セックスシンボルとしてふるまうチャニングテイタムが放つ「ファンをけなすようなことは言うべきではない」というようなセリフの場面では、パッとみ道化的にふるまうすべての人たちの持つ切実な矜持を伝えているようで感動した。
9 ブレットトレイン/ Bullet Train
デビッド・リーチ監督のアクションコメディ映画。ブラッドピットが主演。アーロンテイラージョンソン、ブライアンタイリーヘンリー、真田広之らが脇を固める。
欧米視点の日本をVFXで盛大に金かけてスラップスティックコメディかと思うようなテンションで駆け抜ける。随所に日本と違うけれどなぜか嫌な気持ちにならない、それどころか今年観た映画で一番楽しかったくらいよかった。
禅の思想みたいなのにかぶれたブラッドピットの自己言及的なユーモアなのかなんなのかわからない格言や比喩表現のくだりも味わい深く、絶対に日本の人は思いつかなそうな新幹線の使い方にも驚かされた。
8 線は、僕を描く
横浜流星が主演。清原果邪、河合優実、江口陽介、三浦友和ら出演。砥上 裕將の原作を「ちはやふる」の小泉徳宏監督で。
何者でもない若者が何者かになるモノで、途中までは少し心の距離を置きながら観ていたが、観ているうちに、どんどん引き込まれた。水墨画に限らずの表現の本質をつかんでいく過程が主人公の成長とリンクしていて、それはそのまま横浜流星という俳優の成長そのもののドラマチックさもあった。
映画の中の登場人物は、表現の本質をわかっている人たちと、まだわかっていない人たちに分けられて、わかっている人たちは、主人公の過去にただならぬ何かがあったことは見透かしつつ、誰も深くは聞かない。そのかわり、意味深な言葉をそれぞれ投げかけつつ、主人公を表現の深みへと向かわせる。その様子には、水墨画、という表現を通したカウンセリングのような印象も受けた。
自分の表現を獲得する、いわば、個性を出す、ということは、スキルなしに好きにやっていればいいということでもないということもちゃんと踏まえているから、主人公の成長に、説得力もある。
7 ハウスオブグッチ / House of Gucci
リドリースコット監督。レディーガガ、アダムドライバー、ジャレッドレト、アルパチーノら出演。
グッチの富と名声をめぐって群がる一族の顛末。良家の高等遊民な息子たちを打ちのめすのは、冷静な傍観者であり、そして、資本主義社会そのもの。グッチはケーキみたいなもの、というのがいい得て妙。野心のないはずだったアダムドライバー演じるマウリツィオが、結果的に野心に飲み込まれてあのような末路を辿るというのは悲劇であるし、皮肉たっぷりの喜劇。
世にも斬新な「署名」シーンも忘れ難い。
6 ニューオーダー/ New Order
ミシェル・フランコ監督。メキシコ出身監督のメキシコ映画。
主人公のマリアンとクリスチャン、富裕層と使用人、というそれぞれの立場ながら、危機に陥る中で、人を助けよう、という、人道的な態度、行動をみせる。それら、人間性、みたいなものが、全て踏み躙られることこそ、戦争状態である、ということを、悪夢的、それでいて、ディストピアSFとしてあまりにも今の現実と地続きであるように思われるように描く。善意が踏み躙られることの恐ろしさを描いたホラー。
“市民の不平等を民主的手段で解決しようとせず、その声をただ封じ込めるだけなら、さらなる混沌を招くことになる”、という警告としての映画であり、財力、政治力、軍事力。金、権力、武力など、特定の資源が一ヶ所に集まりすぎると、全体として、ロクなことにならない。そういうことを痛感させる映画でもある。
最悪なものを漂白せずに、最悪として描くことも大切な表現だ。不寛容さがもたらすものの末路、いけすかない金持ちへの憎しみが爆発しバッドエンドのディストピア。
5 キングメーカー 大統領を作った男/킹메이커
脚本・監督はビョン・ソンヒョン。ソル・ギョング、イ・ソンギュン、ユ・ジェミョンら出演。KCIAモノ。絶対に勝たせる、選挙勝利請負人のドラマチックな運命。
この世は悪い奴らばかり。理想は負ける。そういう後味悪い政治裏社会モノはたくさんある。そこに振り切ることの品の良さもあるが、そこに振り切りつつ、もっと広く長い射程で、民主的であるとはどういうことか、というひとつの答えを、なんとも品のよく、切なく、それでいて映画的に描く。
冒頭のやりとりが作品のテーマの重要な部分を担っている、というのは監督の前作、名もなき野良犬の輪舞、でもそうだったが、キングメーカーのそれは、よりスケールがでかいというか、深みがあるというか、巨匠かよ、って唸らされた。
キングメーカー大統領を作った男、「南山の部長たち」と併せて観たい、KCIAモノで、韓国現代史の勉強にもなる。キングメーカーのモデルとなった、天才選挙参謀であり”影”であり続けた男、厳昌録は、とても興味深く魅力的な人物。
ビョンソンヒョン監督がマーティンスコセッシから1番影響受けていることを知り、ソルギョングは韓国のロバートデニーロみたいな存在でもあるな、と思った。
4 モガディシュ 脱出までの14日間/모가디슈
リュ・スンワン監督。キム・ユンソク、チョ・インソン、ホ・ジュノ、ク・ギョファンら出演。
ハードな実話ベースに、敵対する両者が、生き残る!という利害関係を一致させ、死地を生き抜くことを通して、同じ人間、としての関係性を強める。言葉よりも、顔で語り、顔で魅せる、演者が素晴らしい。
極限状態の中での緊張感、人間らしさ、あたたかみ、おかしみもある、印象深い食事シーンも忘れ難く、助け合わなければいけない状況での人間性、善意、の自然な表出の様子に涙が出そうになるのは、それが日常の中で不足しているものだからだろうか。
3 おうちでキャノンボール2020
ハマジム製作。カンパニー松尾。
コロナ禍、アップデート、そういったものと真摯に誠実に向き合いつつ、いかに本気で遊べるか、ふざけられるか、おもしろいことができるかを追求した結果、めちゃくちゃおもしろい。制約があることでむしろ新たな道が拓けている奇跡的シーンが多々あった。この2年間の特殊な時代のドキュメントとして、とても意味のある作品。2020年の5月くらいの新宿の様子など、いまではもう忘れてしまった非日常が記録されている。
テレクラキャノンボール2013観たときとはまた別の感じに、なぜ生きる、どう生きる、みたいなことを考えさせられた。
2 クライマッチョ/ Cry Macho
クリント・イーストウッド監督、製作、主演。
傷ついて、傷をいやし、人はまた歩いていくのだ。じんわりとヒーリングのような映画で、ロードムービーとして映し出されるメキシコの地平線に沈む夕日の美しさ、渋くも流麗なカントリーやラテン音楽も素晴らしい。
「マッチョ」であることから降りること、傷と向き合い、癒すこと。それこそが本当のマッチョ、すなわち、強さ、である、というメッセージ。引退したカーボーイ、マイク、の姿に、クリント・イーストウッドの現在地も重なり、重みが違う。それでいて軽妙な軽口もいい。
家がない、野良犬でも、新しい家を見つけるのに遅すぎることはない。
巨匠の到達した偉大かつ軽やかな表現地点。まだこの先もあると思わせることの凄さ。
1 マイスモールランド
今年一番の重要作と思った。観ていると、日本のシステム、日本社会、日本人気質への怒りがこみ上げる。しかし同時に無力感もあり、途方に暮れる。既成の枠組みの外側にある、アート、に未来を託すような、そんな祈りのような今作を受け取り、どうするかだ。
内容をあまり知らない状態で、たまたま川口で観たが、それが結果的に映画体験としてとても良かった。
等しくみな、善人なのだけれど、制度を前にしたり、自分の半径5メートルより外側の物事に対しては、等しくみな、冷たく無情。立場が少し違うだけで、日本はこんなにも、生きづらい。
クルド、制度、日本。その外側にある、恋。純粋な、つながり。あの彼が、アートを志しているのは、必然であることに思った。既存の秩序を一度ほぐし、再定義させていく。色を重ねていく彼のアートの必然性。
2020年代、社会、制度、人の常識の範囲、少しずつ確実に、結果的に大きく変わっていくだろうという、願いを込めて、今作が1位。
また、以下、映画館で映画を鑑賞することの意味、その楽しさを、本質に立ち返りつつ再定義、再提示してくれた作品。
RRR
NOPE
トップガン マーヴェリック
コロナ禍はピークを越えたが日本社会は世界は混沌と不穏さを増すばかり。
しかしそのような世相でこそ映画は輝き息を吹き返す。
2023年、新作映画も、そうではない映画も、より深く味わっていきたい。
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