2020年から引き続いてコロナ禍だった2021年。
ほとんど緊急事態宣言だった気もする。
そんな中、感染症対策をしっかりしつつ、映画館は開いていた。シェルターのように、そこにあり続けていた。
今年も変わらず映画館へ通った。
劇場で観た映画の中から選んだ、いまの時点での10本を以下に。
■10位 子どもはわかってあげない
南極料理人や横道世之助の、沖田修一監督作品。主演は、上白石萌歌、細田佳央太、豊川悦司、斉藤由貴、千葉雄大ら。田島列島の同名コミックを映画化した作品。
高校の水泳部のエースで、左官のアニメの好きな、上白石萌歌演じる、朔田 美波(さくた みなみ)。部活終わり、プールからみた学校の屋上に、なにか見つける。階段駆け上がり見に行くと、自分の好きな左官のアニメのキャラを筆で描いてる青年が。何君?と尋ねると、モジくん、あ、いや、門司(もじ)、と答える。彼との出会いから、ふとしたきっかけで、美波の実の父親探し、が始まっていく。
空の青と白いシャツ、健康的な日焼けとショートヘアーの上白石萌歌の、10代最後の夏を撮り納めた映画として、独特の移動長回しショットもあいまって、80年代青春映画の感もあり、素晴らしい。
水泳部の顧問が語尾に「な」をつける、美波の「アデュー」、美波の母の「OK牧場」、など、印象的な言葉が散りばめられた、会話も魅力。まじめな場面になると笑ってしまう美波の、どこか俯瞰で物事を見ているようなクールさと、独自の世界観、自分をしっかり持ってるがゆえのぶれない明るさが、映画全体の空気感を爽やかで超現実的でもあるいいバランスに保っている。
画面の中で、青と白の割合が多い。出ている人が、みんな健康的に日焼けしている。プールが出てくる。海も出てくる。そういう画面をただ眺めていたい気持ちにさせられる。
食事を通して、心的な距離を近づけていく描写もいい。ゆるい時間を過ごしているようでいて、ひと夏終えての成長がある、という夏休み映画でもある。
ブーメランパンツを履いて「僕にも教えてくれよ」の豊川悦司はアウトめなギリギリ感大賞2021ノミネート。
■ 9位 BLUE
ヒメノア〜ル、愛しのアイリーンなどの、吉田 恵輔監督による、ボクシング映画。松山ケンイチ、木村文乃、柄本時生、東出昌大らが出演。
ボクシングへの熱量は誰にも負けないが、試合で勝てない瓜田。その後輩であり、瓜田の幼馴染とも結婚を控え、日本タイトルも目前のボクシングの才能に恵まれた小川。パチンコ屋でバイトして中学生にボコボコにされ、やってる感を出す浅い目的でジムにやってきた楢崎。それぞれのやり方でボクシングと向き合う3人のボクサーの生き様を描く。
ビハインドからの勝利だとか、ヒロイックな展開だとか、ドラマチックなロマンスだとか、わかりやすいカタルシスがないのに、なんでこんなにも忘れ難く、涙が出てしまうのか。とにかく、負けまくっても闘い続ける瓜田の姿が、その背中が、自分が負けて悔しくても人のために手を差し伸べるその姿が、心を打つ。
熱量と才能は別、というリアルもあれば、熱量があること、それこそが才能でもある、という考えもある。好きこそものの上手なれ。好きなことを見つけよう。しかし、才能のないところでの熱量というのは呪いでもある。好きで得意だったらそれを突き詰めればいいじゃない、も、好きは別にして得意なことや金になることすればいいじゃない、も、どちらも正しいのだろうが、瓜田を筆頭に今作の3人のボクサーは、そのような正しさの尺度ではないところで生きている。そういう生き様へと向かわせるのがボクシングの魅力であり、恐ろしさでもあると感じる。でも、3人とも、苦しそうでもあるし辛そうでもあるが、すごく、生きている、感じがする。
自分の身体の悲鳴や、周囲の冷静な視点を超えての、好きゆえの呪いというところでは、ダーレンアロノフスキー監督、ミッキーローク主演の映画レスラー(2008)のそれを思い出したりもした。
ボクシングジムの会長、ボクシングジムのスタッフ。実在感あった。ボクシングの殺陣は監督自ら行ったという。過度にドラマチックに演出されていないボクシングのリアル描写という温度感。
ボクサー版のトキワ荘の青春、を目指したとか。青春物語に苦みやつらみはつきもの。当事者が切実になにかに向き合っているほどに。
パチンコ屋の中学生とか、パチンコ屋のスタッフルームだとか。地方都市のなんともいえない哀しみおかしみを描く手腕の確かさも健在。
■ 8位 21ブリッジ
マーベルの一連の作品で知られるルッソ兄弟製作。監督はブライアンカーク。ブラックパンサーのチャドウィックボーズマンが主演。シエナミラー、JKシモンズ、ステファンジェームズら出演。
マンハッタンの真夜中、確かな筋からの情報を基にレストランの地下から麻薬を盗み出す2人組。想定していたより大量のブツに驚きつつも、強奪。しかし、ちょうど警官がそこへ入ってくる。なぜこんな時間に警官が?あれよあれよと撃ち合いになり、2人組は逃走、警官たち多く犠牲になる。やがて、事件の現場に現れたのは、正義の代価だ、と犯人追跡中の射殺もいとわないハードなニューヨーク市警刑事、アンドレ。大胆にも、マンハッタンへとかかる21の橋を封鎖。朝のラッシュまでな。タイムリミットは夜明け。絶対捕まえるぞ、と犯人追跡をはじめるが、なにか、うまく進みすぎて腑に落ちないところがあると感じるアンドレ…。
こういう類の映画が大好きだ。まさにこういう映画が観たくて映画を観ているというところもある。マンハッタンを舞台に繰り広げられるリアルアクション。夜のマンハッタン、犯罪、警察、地下鉄やビルや厨房の裏口や資金洗浄の現場で響き渡る銃声。いわゆる、テレビ東京の午後のロードショー系の安定感。しかし今作は、都市型リアルアクションのジャンル映画的面白さを追求しつつ、サスペンスでもあり、チャドウィックボーズマンが正義とはなんぞやと葛藤しながら闘う姿を見せつけてもおり、観終わった後余韻に浸って都市部における正義について考えを巡らせてしまうような奥深さもある。
雨に濡れた道路を黒光りする車が走り、マンハッタンのビルの明かりが夜の闇を彩り、そういった画面を眺めているだけで、ああ、映画を観てるなぁ、という気分になれる。都市型リアルアクション映画をもっと観たいし、このような映画でのチャドウィックボーズマンの今後のさらなる活躍をみたかった。ブラックパンサーもいい映画だが、ことあるごとに見返すことになるのは、21ブリッジだ。
■ 7位 最後の決闘裁判/ The Last Duel
監督はリドリースコット、脚本はニコール・ホロフセナー、マット・デイモン、ベン・アフレック。ジョディカマー、アダムドライバー、マットデイモンらが出演。実話を元に、14世紀フランスのスキャンダル を描くミステリー。
騎士の妻であるマルグリットが受けた暴行。その真相を巡り、黒澤明の羅生門的な叙述で、三者それぞれの立場から、状況と顛末が提示される。
ぼてっとした不器用マッチョなマッドデイモン。インテリぶった感じ悪いうえにホモソな環境でいい思いして感じ悪いアダムドライバー。そして、なんといっても、ジョディカマー。中世を舞台にしつつ、現代にも通じる問題、男性の愚かさを鮮烈に描く。
話のテーマや語り口とは別に、中世の衣装や美術、撮影のセット、素晴らしかった。丁寧にお金のかけられた歴史スペクタクルな映画の画面のルック。おおげさなCGで、いったいなにを見せられているのだろう?と虚無になる感情とは真逆の、やっぱり映画はいいなぁ、というエモーション高まる。
ベンアフレックどこに出てた?と思ったら、あのキャラクターか、と後で気づくくらい、なんか見た目変わってる。
2時間半くらいある映画。ディズニープラスで配信あるが、やはり映画館で没入したい。そして、パンフを読みたい。今作で劇場パンフがなかったこと、その配給の姿勢に関しては、覚えておきたい。
■ 6 位 プロミシングヤングウーマン
エメラルド・フェネルが監督脚本。長編デビュー作。大胆不敵な物語に共鳴したマーゴット・ロビーも製作に名乗りを上げたとか。
キャリーマリガンが主演。ボーバーナム、アリソン・ブリーら出演。
「甘いキャンディに包まれた猛毒が全身を駆け抜ける、復讐エンターテインメント」ということだ。
物語については、多くは知らずして観るのがいいのだろう。
今年のベストオブ復讐ドラマであり、今作以前と以降で、決定的に色々と変えてしまっている。
エイスグレードのボーバーナムも、本人のリベラルでアップデートされているイメージを逆手に取ったキャラクターとして鮮烈に印象に残りつつ、なんといっても、キャリーマリガン演じるキャシーが凄まじい。
自分は悪い人ではない、比較的良心的である、と思っている人ほど観ると打ちのめされる。
■ 5 位 THE SUICIDE SQUAD
トロメオ&ジュリエットでの脚本も担当して、ガーディアンズオブギャラクシーで世に知れ渡ったジェームズガン監督による、新スースク。イドリスエルバ、マーゴットロビーら主演。
極悪な受刑者たちが、減刑を餌に政府の秘密任務へと駆り出される。命令に背いたり、任務に失敗すれば即死。スーサイドスクワッド、と呼ばれる彼らを、決死の任務が待ち受ける…。
最高最高。人を食ったような残酷描写ばかりかと思いきや、トロマ映画みのある、底辺で小さき者が最後に勝つ、みたいな展開もあり涙。
フランチャイズのアメコミ映画で作家性が遺憾なく発揮されるということが必ずしも良いことばかりではないのだろうけど、今回のザスーサイドスクワッドに関しては、キャスティング、演出、やりたいこと、諸々、うまく噛み合って、突然変異な爆発力。お金をかけたトロマ映画、とも言われるのもわかる、異常なエネルギーを感じる作品。
これは戦争映画だというジェームズガン。なるほど。上の命令で決死の任務にあたる。人死にが出る。理不尽な状況。ファンタスティックなゴア描写や悪趣味とポップでカラフルのギリギリの塩梅のルックでありながら、たしかにこれは、DCフランチャイズのヒーロー映画である前に、戦争映画なのかもしれない。
中盤以降から活躍するハーレイクインも、これまでのマーゴットロビーのハーレイクインで一番輝いていた印象。シルベスタースタローンが声のサメ人間ナナウエがオフビートな笑いと常に誰が喰われる不穏さを加えていて最高。
■ 4 位マリグナント 狂暴な悪夢 (2021)
ソウや死霊館のジェームズワン監督の作品。
過去に恨み持ってるモンスターモノでありつつ、ジャンル映画的でありながら、ファンタスティックかつ痛快な落とし所をたたきつける。
音楽もかっこいい。脇を固めるキャラクターたちもいい感じ。そして、ガブリエルというダークヒーロー爆誕。
ホラーとしての怖さもあるし、ダークヒーローものとしての楽しさもある。
こういう映画を観ていきたい。
■ 3 位 RUN
アニーシュ・チャガンティ監督、セブ・オハニアンとアニーシュ・チャガンティ脚本、サラポールソン、キーラアレンら出演。
ワシントン州パスコの郊外の一軒家で仲良く暮らす親子。クロエとダイアン。クロエは持病で車いす。しかし親子で仲良くホームスクーリングして、大学へ向けて勉強。かと思いきや、不穏な様子。クロエが持病のために飲んでいたクスリ、緑のその錠剤の、ボトルのラベルが上から貼りなおされていた。下にあった薬の名は、トリゴキシン。いったいどういうことなのか。これまで与えられていた自由を疑い始めた時、戦慄のサイコスリラーが幕を開ける..
冒頭から、病院の場面、病院のスタッフの作業着、クロエとダイアンの暮らす一軒家に、共通して使われている、濃いめのミントグリーン緑色。その毒にも薬にも思える色は、トリゴキシンの錠剤の色。映画全体のトータルデザインにも、マクガフィンとしても、スリルとサスペンスを牽引するアイテムとしても、緑の錠剤トリゴキシンがとても優秀。
母の愛情、母と子の絆、それは美談として語られがちである。家族の絆。家族で支え合う。あなたには私が必要。あなたのためにやっている。
そういったところを逆手にとって、こんなにも怖くて手に汗握るホラースリラーを作り上げるとは。愛と暴力は紙一重。
90分という上映時間にも驚かされる。テンポがいい。信号渡れるかどうかサスペンス、気づかれるかどうかサスペンス。細かいサスペンス演出がうまい。
■ 2位 マトリックス レザレクションズ
マトリックス、18年ぶりのリブート。
別の世界線みたいなところで生きているのか?なにこれ?と思わせる序盤からの、ええ?どういうこと?な中盤からの、やっちまえ!な終盤。1、2、3見返してから観たけど、もともと2と3はぼんやりしてるし、関係なくアガる映画。
観た後、昔仲良くていまじゃ疎遠になっている友人に連絡をとりたくなる映画でもあった。
なにがリアルで、なにが虚構か。ぬくぬくと羊のごとくリアルのように見せかけた虚構を生きるのか。いや、違う。目を覚ませ。
キャリーアンモスのかっこよさ、デジャヴーな猫。
中年のロマンスでありつつ、後味さわやか。
いろんな種類のサングラスがかっこいい、いろんなデザインがかっこいい。
今作を映画館で観て、いろいろあった2021年も〆った気がした。
Wake up!
■ 1位 カラミティ
高畑勲監督も推したロングウェイノースの主要スタッフが再集結。レミシャイユ監督作品。アヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞であるクリスタル賞を受賞。フランスのアニメ。共同制作、デンマーク。伝説の女性ガンマン、カラミティジェーンの少女時代の物語。
なんだか居心地の悪そうなマーサジェーンのしかめっ面から幕開け。マーサは家族と共に幌馬車で西へ西へと旅団の中。家族支える父親が暴れ馬にやられて休まざるを得なくなり、マーサが父親がわりに家族を守る役割をすることに。馬の手綱を握ることも、女だから、という理由でさせてもらえない。スカートや長い髪が、ケンカしてれば邪魔になる。少年のような装いでタフに振る舞うマーサを、周囲は咎める。そんな中、窮地を救ってくれた軍人、サムソン、を旅団に招き入れたことから、マーラはトラブルに見舞われることになる…。
権威の愚かしさを暴き、疫病神がやがて英雄に。カラミティ・ジェーンというヒーローの誕生譚は痛快でいて寓意に満ちている。かつてのスタジオジブリのマインドに通じる、少女の成長物語。
主線のない独特の作画、幻想的な美しい色使いの風景も素晴らしかった。
カラミティ観たタイミングでロングウェイノースも観たが、家や自分の与えられた役割に縛り付けられる必要はない、やりたいこと、信念のおもむくままに生きよ。その道で自立することを通じて家に報いよ。というメッセージが両作品に共通してあるように感じた。19世記が舞台で、若草物語とか、アップルTVプラスのドラマ、ディキンスンにも通じる、現在と比べても抑圧的な価値観が支配的だった時代を舞台にして現代的な意識を持った人を主人公として描くことで、過去にも現在にも通じる普遍的な問題を浮き彫りにして、その先へと向かう先進性を示すドラマ。
お子様へ、大きくなったら、ジブリもいいけど、カラミティ。
異性装による状況の打開の描写も印象的だった。
なぜマダムだけが、マーサが少年のふりをしていることを見抜くことができたのか?ということも。
その手綱から手を離せ、らしく振るまえ、という抑圧にさよならを。心にカラミティジェーンを。
以下、特別枠。
・007 ノータイムトウーダイ
ダニエルクレイグ、お疲れ様!ありがとう!
・アメリカンユートピア
観念的で哲学的な言葉と、フィジカルに訴えかけるグルーヴと、斬新でいて自由でいて統制の取れているステージングがあいまって、映画でありつつ、新次元の楽しいライブ体験。
・JUNKHEAD
とてつもない熱量と作業量と才能の結実した世界射程のインディペンデント映画。すげぇ!ってなった。
・べいびーわるきゅーれ
そのあまりの文句なしなおもしろさゆえ、スターダムかけあがった日本映画代表。
来年も映画を観て生きていきたい。